環境省のレッドリストは、日本にすむ野生生物について、「絶滅のおそれがどれくらい高いか」を科学的に評価し、まとめたものです。おおむね5年ごとに見直され、保全の基礎資料として使われています。レッドリストに掲載された種について、分布、生息状況、減少の原因などをよりくわしく解説し冊子にしたものがレッドデータブック(図1)です。今回の第5次では、鳥類のレッドリストとレッドデータブックが2026年3月17日に同時に公表されました。鳥類では掲載種数が170種となり、2020年に公表された前回のレッドリストより16種増え、14種が外れ、新たに30種が掲載されました。絶滅危惧種は98種から108種へ増えており、鳥類を取り巻く状況が全体として厳しくなっていることが示されています。
1.これまでと異なる特徴
―陸域と海域の統合、定量評価、レッドデータブックの同時公表
第5次レッドリストの大きな特徴は、これまで別々に作られていた陸域のレッドリスト(環境省)と海域のレッドリスト(水産庁)を、共通のルールでまとめ直していることです。これにより、陸の生物だけでなく海の生物も含めて、日本の野生生物全体を、できるだけ同じ考え方で評価できるようになりました。環境省は2020年度からこの新しい体制で見直し作業を進めていて、第5次レッドリスト・レッドデータブックを順次公表しています。
もう一つの大きな特徴は、評価方法が、これまでよりも数値やデータを重視する方法に変わったことです。第5次では、全ての分類群で「定量評価」を行う方針となり、できるだけ客観的に判断することが求められました。つまり、「減っていそう」という印象だけではなく、個体数の減少率や分布の広さなど、できるだけ具体的な数字や資料に基づいて評価するようになりました。そのために、新しいチェックシートも作られ、過去データの取り込みや判定の補助がしやすい仕組みが整えられました。これは、人によって判断が大きく振れないようにする工夫でもあります。ただし、この方法はより正確になる一方で、必要な資料が増え、作業量も大きく増えました。鳥類分科会でも、評価対象種の決定、担当者の割り振り、チェックシートの入力、評価のすり合わせなど、多くの準備が段階的に数年かけて進められました。
さらに、第5次ではレッドリストだけでなく、レッドデータブックも同時に公表されました。これにより、「どの種が危ないか」だけでなく、「なぜ危ないのか」「どんな場所にすんでいるのか」「どんなことが脅威になっているのか」まで、よりまとめて知ることができるようになりました。種別の状況について知りたい方は、ぜひレッドデータブックを参照してみてください。第5次は、単なる一覧表の更新ではなく、保全に役立つ情報をより使いやすく、よりわかりやすく提供した点も重要な特徴となっています。
2.鳥類の新たな指定状況と特徴
第5次レッドリストの鳥類では、掲載種数は170種となり、前回より16種増えました。新たに掲載された種は30種あり、これまで比較的よく見られると思われていた鳥も、近年の急な減少を受けて新たに掲載されています。例えば、キンクロハジロは、アサリなどの底生生物が減り餌が不足している可能性があり、同じ場所でスズガモ等も減っていることから、生息環境の悪化が疑われています。ウミネコは、ネコ・ネズミ・カラス・オジロワシによる捕食や撹乱、餌魚の減少、人による卵の採集や繁殖地への立ち入りなどで繁殖が妨げられていることが脅威となっています。ゴイサギ(図2)は、浅い水辺の環境悪化に加え、小型魚類の減少や、住宅地近くの繁殖地での追い払い・営巣林の伐採などが減少要因として懸念されています。このように、これまで問題が少なかった生息環境や餌の変化などにより、全体的に鳥類の絶滅のおそれは前回より高まったと考えられています。
表2‐1.レッドリストのカテゴリー
| 略号 | カテゴリー | 意味・説明 |
| EX | 絶滅 | 日本ではすでに絶滅したと考えられる種。 |
| EW | 野生絶滅 | 飼育・栽培下、または本来の分布域の外で野生化した状態でのみ残っており、野生ではいない種。 |
| CR | 絶滅危惧IA類 | ごく近い将来に野生で絶滅する危険性がきわめて高い種。 |
| EN | 絶滅危惧IB類 | 絶滅の危機にある種。CRほどではないが、近い将来に野生で絶滅する危険性が高い種。 |
| VU | 絶滅危惧II類 | 今はCRやENほど深刻ではないが、このまま圧迫要因が続くと、将来それらのランクに上がるおそれが高い種。 |
| NT | 準絶滅危惧 | 今すぐ絶滅危惧ではないが、生息環境の変化などによって将来、絶滅危惧になる可能性がある種。 |
| DD | 情報不足 | 心配な点はあるが、どのランクに入るか判断するための情報が足りない種。 |
| LP | 絶滅のおそれのある地域個体群 | 種全体ではなく、ある地域に限られた個体群について、絶滅のおそれが高いもの。 |
目立つのは、シギ・チドリ類に代表されるような渡り性水鳥類で、危険度が上がった種が多いことです。例えば、ツルシギはVUからEN、アカアシシギはVUからCR、ハマシギはNTからVUに変わりました。ガンカモ類のサカツラガンとアカハジロもDDからCRに見直されています。コアジサシ(図3)やオオアジサシも危険度が上がりました。これらは、東アジア・オーストラリア地域フライウェイという広い渡りのルートの中で、数が減っていることや、渡来地・越冬地の環境が悪くなっていることが、日本国内の評価にも反映された結果と考えられます。
一方で、すべての鳥が悪化したわけではありません。コウノトリ(図4)やトキはCRからEN、ハクガンやシジュウカラガンはCRからVU、タンチョウやヒシクイ、アマミヤマシギはVUからNT、に見直されるなど、保全の成果や情報の見直しによって、危険度が下がった種もあります。第5次の評価は、「危ない種を増やす」ものではなく、最新のデータに基づいて、悪化した種も回復した種も再評価した結果が反映されています。
また、DD(情報不足)の扱いも重要なポイントです。DDは「何もわからない」という意味ではなく、「心配な点はあるが、明確に判定するだけの情報が足りない」状態です。そのため、第5次ではツクシガモやトモエガモがDDに見直された一方、ダイトウウグイス、オオムシクイ、シロハラミズナギドリなどは、調査が進んだことでDDから絶滅危惧に移りました。これは、調査が進めば評価も変わることを示しており、DDが“保留”ではなく、今後の個別の調査が特に必要な区分であることを示しています。
さらに今回は、2024年に発行された『日本鳥類目録第8版』に基づいて、学名や和名の変更、亜種から種への見直しも反映されました。これは見た目には細かな変更に見えますが、保全上、とても重要です。なぜなら、どこまでを一つの種・亜種として扱うかが変わると、分布の広さや個体数の推定値も変わり、絶滅危険度の評価そのものが変わるからです。ヤマガラの亜種から別種になったオリイヤマガラなど、特に島にすむ鳥や分布が狭い鳥では影響が大きく、第5次レッドリストは、分類学の新しい知見も取り入れながら鳥類の危機を見直したものだといえます。
3.モニタリング調査データの貢献
この改訂には多くの研究者や専門家が関わっていますが、鳥類分科会にはバードリサーチ前代表の植田睦之氏が委員として参加し、評価作業にも関わっています。また、神山は主にカモ類、守屋は主にシギ・チドリ類の評価や情報整理に協力しました。
さらに、バードリサーチが事務局を務める全国鳥類繁殖分布調査やモニタリングサイト1000ガンカモ類/シギ・チドリ類調査など、バードリサーチ会員をはじめとした調査参加者のデータも多用されています。多くの種で評価の基礎資料が十分とはいえない中、全国規模の継続調査が重要な役割を果たしました。特に「全国鳥類繁殖分布調査」は、約20年おきに全国一斉で実施されてきた調査であり、2016–2021年の最新調査は、広く分布する鳥類の繁殖分布の変化や確認件数の増減を定量的に把握するうえで大きく貢献しました。また、モニタリングサイト1000のような継続的調査は、特定の環境に依存する種の増減傾向を長期的に示す材料となり、ランク変更の判断を支える根拠となりました。こうした広域・長期のデータがあったことで、従来は「普通種」とみなされていた種の急減や、逆に保全の成果による改善も把握しやすくなっています。今後の改訂でも、我々はこれらの調査の継続に加え、情報不足種を意識した重点調査と情報収集体制の強化が不可欠であると考えています。
4.第5次でカテゴリーが変化した鳥類のまとめ
第5次レッドリスト鳥類の一覧表(エクセルファイルに改変)のリンクを下記に示します。
以下の表では、絶滅危惧Ⅱ類(VU)以上を絶滅危惧種とし。前回改定前のランクを”2020”、今回の改訂を”第5次”として示しています。
1.危険度が上がった種・絶滅危惧入りした種
| 種名 | 2020 | 第5次 |
| サンカノゴイ | EN | CR |
| オガサワラミズナギドリ(旧:セグロミズナギドリ) | EN | CR |
| アカモズ | EN | CR |
| ダイトウコノハズク | VU | CR |
| アカアシシギ | VU | CR |
| コアジサシ | VU | EN |
| コジュリン | VU | EN |
| ツルシギ | VU | EN |
| ケイマフリ | VU | EN |
| オオアジサシ | VU | EN |
| イイジマムシクイ | VU | EN |
| オーストンウミツバメ | NT | EN |
| オオセグロカモメ | NT | EN |
| オリイヤマガラ | NT | EN |
| クロウミツバメ | NT | VU |
| ハマシギ | NT | VU |
| マキノセンニュウ | NT | VU |
2.危険度が下がった種・カテゴリー外になった種
| 種名 | 2020 | 第5次 |
| コウノトリ | CR | EN |
| トキ | CR | EN |
| ノグチゲラ | CR | EN |
| チゴモズ | CR | EN |
| シマフクロウ | CR | EN |
| ハクガン | CR | VU |
| シジュウカラガン | CR | VU |
| アカアシカツオドリ | EN | VU |
| アカオネッタイチョウ | EN | VU |
| ウチヤマセンニュウ | EN | VU |
| クロツラヘラサギ | EN | VU |
| ハハジマメグロ | EN | VU |
| ホントウアカヒゲ | EN | VU |
| アマミヤマシギ | VU | NT |
| オオトラツグミ | VU | NT |
| タンチョウ | VU | NT |
| ヒシクイ | VU | NT |
| ミゾゴイ | VU | NT |
| クマゲラ | VU | NT |
3.DDから絶滅危惧になった種
| 種名 | 2020 | 第5次 |
| アカハジロ | DD | CR |
| サカツラガン | DD | CR |
| コトラツグミ | DD | CR |
| オオムシクイ | DD | EN |
| ダイトウウグイス | DD | EN |
| ヘラサギ | DD | EN |
| ヤイロチョウ | DD | EN |
| リュウキュウツミ | DD | EN |
| シロハラミズナギドリ | DD | VU |
| リュウキュウオオコノハズク | DD | VU |
4.絶滅危惧からDDになった種
| 種名 | 2020 | 第5次 |
| キンメフクロウ | CR | DD |
| ミユビゲラ | CR | DD |
| キンバト | EN | DD |
| アカヒゲ | VU | DD |
| セイタカシギ | VU | DD |
| タマシギ | VU | DD |
| ツクシガモ | VU | DD |
| トモエガモ | VU | DD |
5.カテゴリー外になった種
| 種名 | 2020 | 第5次 |
| シラコバト | EN | 不掲載 |
| サンショウクイ | VU | 不掲載 |
| 青森県のカンムリカイツブリ繁殖個体群 | LP | 不掲載 |
| 東北地方以北のシノリガモ繁殖個体群 | LP | 不掲載 |
| カラシラサギ | NT | 不掲載 |
| マガン | NT | 不掲載 |
| ミサゴ | NT | 不掲載 |
| アカツクシガモ | DD | 不掲載 |
| オシドリ | DD | 不掲載 |
| クロヅル | DD | 不掲載 |
| クロトキ | DD | 不掲載 |
| シベリアオオハシシギ | DD | 不掲載 |
| チシマシギ | DD | 不掲載 |
出典:別添資料3「環境省第5次レッドリスト(鳥類及び爬虫類・両生類)カテゴリーの新旧対照表」
参考文献:
・植田睦之・植村慎吾 (2021) 全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう2016-2021年.鳥類繁殖分布調査会,府中市.
・環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室.環境省 報道発表資料 第5次レッドリスト(鳥類及び爬虫類・両生類)の 公表について(お知らせ)https://www.env.go.jp/press/press_03312.html





