バードリサーチニュース

トモエガモ全国調査2022/23年の報告

バードリサーチニュース 2024年10月: 2 【活動報告】
著者:櫻井佳明(加賀市鴨池観察館)・神山 和夫

少し前までは珍しい種だったトモエガモの個体数が、2010年代後半から急増しています。そこで片野鴨池とバードリサーチは共同で2022/23年からトモエガモ全国調査を呼びかけて、全国の分布と個体数の把握に取り組んでいます。この全国調査の結果、2022/23年の国内総数が167,758羽だったところが、2023/24年は387,836羽に増加していたことが分かりました (図1)。

図1. トモエガモ全国総数の変化。2021年度までは個体数が大きな生息地の越冬期最大数から推定、2022, 2023年度はトモエガモ全国調査による。

図2. トモエガモ全国調査2023/24年の全期間の個体数分布図

トモエガモは大群で頻繁に移動することがあるため、調査期間が長いと同じ群れを別の場所で重複して記録してしまうことが起こります。そこで、2023年10月から2024年3月のあいだ毎月10日から19日まで の10日間を調査期間として、記録の提供を呼びかけました。さらに直接寄せられた記録に加えて、バードリサーチのフィールドノートやCornell Lab of OrnithologyのeBirdといった野鳥観察データベースの情報も追加しました。観察記録は地名や緯度経度を手がかりに湖沼を単位にして整理し、同一地点から複数の報告があった場合は最大値を採用しました。海や川などひとまとめ にできない場所は個別の地点としました。また、個体数のない記録は1羽として利用しました。その結果、調査期間内のデータが175地点478件、調査期間外まで含めると303地点1399件の記録が集まりました。この結果を1次メッシュを縦横に2等分したメッシュで地図上に表示すると、すべての都道府県でトモエガモが確認されていました(図2)。

調査期間外のデータも含めると1,000羽以上の記録があった調査地点は17か所あり、鹿島市有明海沿岸200,000羽、諫早湾145,720羽、 印旛沼138,670羽、不知火干潟120,000羽、宍道湖58,000羽、新拓溜池50,000羽、河北潟16,000羽、巨勢川調整池11,200羽、片野鴨池7,653羽、 小野湖5,025羽、酒直水門5,000羽、大山公園3,700羽、新前川堰3,000羽、琵琶湖(琵琶湖博物館前)1,500羽、朝日池1,007羽、木屋川河口1,000羽でした。

月ごとの個体数は1月を頂点にする山型になり、2023/24年の最大個体数は1月の387,856羽で、2022/23年の最大数167 ,757羽から倍以上に増加しました。また1月の記録のうち有明海沿岸と千葉県北部だけで約8割を占めているのも2022/23年と同様で、個体数分布には偏りがあることが分かりました。

図3(左). 2022/23年と2023/24年のトモエガモ全国総数の季節変化。図4(右).千葉県の印旛沼と長崎間の諫早湾で大きな群れが記録された時期。

それから個体数推定で重要な点になりますが、2022/23年に長崎県の諫早湾と千葉県の印旛沼で10万羽を超えたタイミングはそれぞれ12月下旬と1月上旬で、九州北部と関東で異なる時期に10万羽を越えたので、同じ越冬群が移動した可能性も考えられました。しかし2023/24年は同じ1月に諫早湾で20万羽、印旛沼で10万羽の群れが確認されたので、前年の諫早湾と印旛沼の群れが別の群れであった可能性も出てきました(図4)。有明海と千葉県で越冬する大群が別の群れなのかについては、この冬の調査で明らかになることを期待しています。春の渡りに関しては、2022/23年は2月にすでに減少が見られましたが、2023/24年は2月にも14万羽が記録され、3月にも2万羽が確認されました。2023/24年は前年と比べて3月の平均気温が約3度低かったため、その影響かもしれません。岩手県・秋田県以北では10月と3月の記録がほとんどであることから、日本列島沿いに各地の湖沼を中継しながら移動する個体もいると思われますが、越冬期に個体数が増えた場所以外で渡り時期に大きな群れが記録された場所はありませんでした。

今シーズンもトモエガモ全国調査がはじまりました。毎月10~19日にカウントしたトモエガモの最大数をtomoegamo@teamkamoike.comへ送って下さい。なお、バードリサーチが事務局をしている環境省のモニタリングサイト1000と渡り鳥飛来状況調査の記録や、ガンカモWebデータベース、野鳥データベース「フィールドノート」に記録を入力されている場合は、そのデータを利用させていただきます。集まった記録は随時、鴨池観察館のWebサイトで報告されます


印旛沼で越冬するトモエガモ(2024年1月18日)