バードリサーチニュース

日本鳥学会2024年度大会参加報告

バードリサーチニュース2024年10月:1 【参加報告,学会情報】
著者:姜雅珺 (ジャン ヤージュン)

9月13日から16日まで東京大学農学部で開催された日本鳥学会大会に参加してきました。9月の連休ということで、学会では託児所も備えられているので、小さな子どもを連れて参加されている方もいました。また、参加人数は1,200名(高校生以下217名)に達し、とても大規模な学術集会でした。9月とはいえ気温が高く、現場の熱意がさらに伝わってきました。

大会の新しい試みとして、9月14日の「ひみつ計画」がありました。これは、研究議論の様子を覗いてみようというテーマで、今回は中村司奨励賞受賞者の飯島大智さんと山梨県富士山科学研究所の研究員水村春香さんの研究を巡って、ほかの相談相手の2人とそれぞれの研究について議論していました。議論を通じて飯島さんと水村さんの研究の細部から全体像までがより明確になり、研究ディスカッションの様子を楽しむことができました。

口頭発表は3会場で74題、ポスター発表は6会場で144題、高校生(小中学生もいました)のポスター発表が27題、さらに自由集会が15題ありました。また、黒田賞を受賞した森口紗千子さんの講演や、公開シンポジウム「野生鳥類と高病原性鳥インフルエンザ:大規模感染に立ち向かう」も行われました。

大会のリンクはこちらですhttps://osj2024.ornithology.jp/index.html

 

発表者の許可をもらいましたので、私の印象に残った研究を紹介します。

口頭発表

 

シジュウカラはジェスチャーを使う―翼をパタパタ「お先にどうぞ」

鈴木俊貴

鳥の行動や鳴き声にはどんな意味があるのか?この二つの疑問は、鳥を観察するたびに浮かびます。鈴木さんの発表は、これまでに全く知られていなかった鳥の行動とその意味を明らかにしたものでした。それは、シジュウカラに、ヒトと同じようにジェスチャーがあることです。鈴木俊貴さんの発表で、シジュウカラが翼の動きで「お先にどうぞ」とつがい相手に巣箱に先に入るよう促すことが分かったそうです。これから虫を持ったシジュウカラが羽をパタパタさせる姿を見たら、この研究のことを思い出すでしょう。

 

東日本に定着した外来鳥類ガビチョウの分子系統および集団遺伝解析

発表代表者 田谷昌仁

ガビチョウは「有名な」侵入生物として、1980年代から各地域の研究者や地方組織の注目を集めてきました。実際に、バードリサーチ事務所の近くにある高尾山でも数が増加していますし、多摩川でも繁殖期にはたくさんの鳴き声が聞こえます。今回、田谷昌仁さんの研究により、東日本のガビチョウは東北地方と関東地方で2つの系統に分かれ、遺伝的に異なる由来のガビチョウが侵入したことが明らかになりました。この結果は、ガビチョウの生態や環境への影響を理解する上で重要です。今後の詳細な解析によって、日本全体のガビチョウの遺伝構造や形質の進化的応答についての新たな知見が得られるとのことです。

 

ポスター発表

 

里地里山ランドスケープにおける土地利用の変化に伴う鳥類の応答 

発表代表者 清水花衣

新潟大学の清水花衣さんらのグループでは、里地里山環境にある農地や森林の放棄が鳥類の分布に与える影響をモデル化しました。その結果、繁殖期、渡り期、越冬期における一部の草地性鳥類は放棄農地からプラスの影響を受けていることが分かりました。このモデルを構築するためには、土地利用情報、農業管理方法や鳥の生態についてさまざまな情報が必要となっています。しかし、現在も鳥類の生態に関する基礎データベース、特に利用環境の遷移段階を含めた植生のデータベースが不十分であり、より正確な予測を行うためには詳細な植生データベースの構築が必要だという点が重要だと思われました。

 

参加型調査による鳥の採餌観察記録の収集とデータベース化

植村慎吾

上の発表と同じ会場で、バードリサーチの研究員植村慎吾さんが、鳥の食性情報の重要性についての研究を発表していました。野鳥の全国分布調査は充実してきましたが、鳥が何をどこで食べるかの情報はまだ不足しています。この研究では、2022年から参加型調査を行い、全国から採餌情報を集めて食性データベースを構築しています。すでに約4800件の記録が集まり、季節変化や新たな発見が得られています。今後のデータベースの充実のため、全国で鳥の観察をしている皆さんの協力を、お願いいたします。

 

今回の鳥大会では、私自身も鳥類学若手の会の運営メンバーとして自由集会に関わり、多くの先輩方のお話を聞いて勉強になりました。渡り鳥追跡の自由集会では、嶋田哲郎さんと樋口広芳先生の渡り鳥公開プロジェクトの発表を間近で聞くことができました。この集会では、中国の李国政さんの発表を通訳をしたおかげで、最新の追跡技術の原理についても学ぶこともできました。さらに護身術の自由集会にもアシスタントとして参加し、調査中の安全確保についても学習できました。大会では、興味のある飛翔機能形質に関する発表もたくさんあって、とても満足でした。