20巻最初の論文が公開されました。滋賀県の山々を巡って,コルリとクロジの分布を調べた濵田さんの論文と,澤田さんたちによるカタグロトビの波照間島での記録です。
濵田知宏 (2024) 滋賀県におけるコルリとクロジの繁殖期の分布状況.Bird Research 20: A1-A9.
コルリとクロジはともに,林床に藪のある森を好む鳥です。コルリはシカの影響で減少していることが知られている反面,クロジは分布を拡大させていることが知られています。濵田さんは,2020年から2023年まで滋賀県でその分布を調べ,過去の情報と比較した結果,滋賀県でもコルリが減少傾向にあり,クロジが分布拡大してきていることを明らかにしました。両種とも藪を好む種なので,シカが食べることによる林床植生の減少の影響を請けそうですが,クロジはコルリよりもシカの影響への耐性が強いのでしょうか? それともクロジは日本海側に生息する種なので日本海側にシカが少ないために分布を拡げることができたのでしょうか? こうした地域での詳細な情報を蓄積していくことで,クロジとシカの関係や将来の影響予測などを明らかにすることができると思います。今後の研究にも期待したいと思いました。
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.20.A1
澤田明・大林恭子・波照間良美・星日出子 (2024) 波照間島におけるカタグロトビの記録.Bird Research 20: S1-S12.
カタグロトビは2015年に石垣島に定着し,繁殖もしている鳥ですが,論文で報告されていないということで,今年の秋に出版される日本鳥類目録第8版には掲載されないことになっている種です(日本鳥類目録編集委員長 2013)。澤田さんたちは,そんなカタグロトビを波照間島で観察しました。若い個体だったので,石垣島(あるいは台湾)からの出生分散と考えられます。カタグロトビは日本だけでなく,ヨーロッパでも分布を拡大している「勢いのある」鳥です。今後,引き続き南西諸島に定着し,分布を拡げていくのかどうかはわかりませんが,カタグロトビの,そして南西諸島の生物相の変化を記録する上での貴重な記録だと思います。
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.20.S1