2022年1月末に開始した食性データベースの登録件数が 1000件を超えました!情報提供者数も97人で、まもなく100人に到達しそうです。食性データベースは、「鳥の調査研究に興味がある方が誰でも、データベースに情報を蓄積したり、蓄積された情報から何かテーマを持って情報を抽出して調べたりすることに使われる場所になる」というのが大きな目的の一つです。何かのテーマごとにばっちり解析するにはまだまだ記録が少ないですが、これまでに集まった情報やいくつかのトピックで調べてみたことを紹介します。
1000件の全体像
まず、これまでに登録された記録を概観してみましょう。図1のように与那国島から利尻島、網走まで全国から情報が集まってきています。鹿児島、宮崎、大分、徳島、山形、秋田、岩手の各県からはまだ記録がありません。
全体では、142種の鳥の食性情報が登録されました。最も多かったのはヒヨドリ、次いでイソヒヨドリ、ジョウビタキ、スズメと続きました(図2)。ヒヨドリが多かったのは分布の広さと観察のしやすさによるものでしょう。全国繁殖分布調査、全国越冬分布調査でもそれぞれ個体数と分布で上位に入っています。イソヒヨドリとジョウビタキは後で紹介するように、特に注力して多くの方と情報を集めた企画のため上位に来ました 。
反対に、ウグイスは全国繁殖分布調査の結果によれば最
も分布が広い鳥ですが、食性データベースにはまだ1件も記録がありません。薮にいてなかなか採餌中の様子を観察することが難しいからでしょうね。同じく薮に生息していて分布を拡大中のソウシチョウも食性データの登録は1件のみでした。珍しいところでは、国内で観察する機会は滅多にないハイイロガンの情報が1件ありました。ため池でヒシの実を食べていたそうです。情報は2021年のもので食性データベースの開始より前ですが、迷鳥の食性もしっかり観察した方がおられました。
トピック紹介
食性データベースを立ち上げたときに、いくつかのテーマについて会員の皆さんと一緒にデータを集めるということを始めました。特にジョウビタキやイソヒヨドリについては鳥類学大会でよびかけた有志のグループをつくって、Slackという非公開の場でメッセージをやりとりするアプリを使って情報共有をしながら記録を集めたので紹介します。
冬のイソヒヨドリは海藻を多く食べているかも?
イソヒヨドリの繁殖期の食性についてはいくつかの研究があります(奴賀ら 2016, 鳥居 2019 など)。しかし、越冬期については意外と情報が多くありません。そこで、10月から3月を越冬期として情報を集め、まとめました。このテーマでは長岡市立科学博物館の鳥居憲親さんが主導して多くの記録をとられました。集まった越冬期の食性記録は全部で68件です。このうち、同じ海藻を何度も突いて食べていたなど、同一個体が同じ餌を繰り返し食べた記録を除いて残りの30件をまとめたのが表1です。海藻を食べたという記録が最も多くあつまっていました。中でも、ホンダワラなどの気泡を食べた例が多いようです。もしかすると、海藻につくワレカラという小型の甲殻類や打ち上がった海藻に潜む小さな虫も食べているのかもしれません。海藻を食べたという記録は鳥居(2019)にもありますが、冬の方がその割合は高いようです。昆虫などが少ない冬の重要な食べ物になっているのかもしれません。ただし、海藻の採餌記録はいずれも新潟の海沿いからのもので、他の場所でどうであるか、情報を蓄積して確かめていく必要があります。
ジョウビタキの越冬期の食性
次に、ジョウビタキの越冬期の食性についても10月から3月を越冬期として情報をまとめました。こちらは52件の記録が集まりました(表2)。6割近くは植物の果実や種子を食べたという記録でした。ジョウビタキは雌雄とも越冬縄張りを持ちますが、雌雄で食べ物が違っていないかなと調べてみましたが、現時点の記録では違いはなさそうでした(図3)。
ジョウビタキのSlackには9名が参加し、ぞれぞれの場所のジョウビタキの様子が報告されました。その中で、採餌を観察によって記録する難しさについても言及がありました。みなさん、双眼鏡や望遠鏡、カメラを使って採餌の様子を観察しましたが、ジョウビタキが小さい虫(のような何か)をとったときには何をとったのか、はたまた取れたのか取れなかったのかがわからないということも多かったようです。観察による記録の他に、含まれる餌生物のDNA解析や糞自体の内容物解析もしてみたいねという話も出ました。また、食性のほかにも、ジョウビタキの越冬期の縄張りはどのような場所に作られてどのように防衛されるのか、越冬地をいつ離れるのか、国内でも繁殖しているがつがい形成はいつ起こるのかなど色々な疑問が湧いて共有されていました。
参加者の菊地有子さんからのコメント
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私が観ている場所では、ジョウビタキは毎年冬に会える身近な鳥です。くちばしに赤い実をくわえた姿が印象的ですが、もっと深く知るためには、かなりの根気や工夫がいるようです。まずはチームの方々と経験や印象を語り合い、何か新たな知見を得ることができたら、と思います。さらに多くの方々にジョウビタキに関心を持っていただき、観察の輪が広がることを期待しています。
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イソヒヨドリやジョウビタキでは雌雄の餌メニューの他にも、食べた餌の大きさや場所の雌雄差、緯度と餌の関係などを調べてみましたが、今のところは特筆すべき傾向などは見つかっていません。この2種の記録は、ほとんどが本州からのものだったので、今後はより広い範囲からたくさん情報が集まれば、例えば気温が高い南の地域では冬も動物食の割合が高いとか、何か違った傾向が見えてくるかもしれません。
自然魚道で採餌するダイサギ
最後に紹介するのは、会員の渥美さんのお散歩コースに収まる範囲で得られた記録を深掘りしてみたものです。渥美さんは、これまでに食性データベースに記録された1000件以上の記録のうちなんと3割以上を記録しています。たくさんデータがあるので、ご本人と相談しながらテーマを探してみました。ここでは、渥美さんが日々の観察で記録したもののうち特に籠川という川で採餌をしているダイサギに注目しました。ダイサギが採餌した場所を地図に落としてみると、図4のようになります。よくみてみると、特に2箇所に集中して点が落ちているように見えます。
この2箇所は、ダイサギに人気な採餌場所であるようです。この場所はいずれも河川内に設置された魚道でした。そこでこの魚道について調べたところ、籠川には水生生物の移動に配慮した「多自然魚道」が設置されているそうです。この魚道は、平成30年には国土交通省の「多自然川づくり」の優良事例としても選ばれています。もしかすると、その魚道を通過する水生生物(記録では魚類が多そう)をダイサギが狙って食べているのかもしれません。サギ類がどんな場所で採餌をするかという研究では、田んぼで採餌する、河川で採餌するなど、大きなくくりでの環境選択については例が多いのですが、河川内の微環境や人工物の環境選択についてはあまり研究例がなさそうです。他の川でも例が増えてきたら改めてじっくり調べてみようと思っています。また、この傾向がありそうなのが今のところではダイサギのみのようで、他のサギ類ではどうなのかも気になるところです。 体の大きさによって使える環境が違ったり、種間競争があったりするのかもしれません。みなさんも、サギ類の採餌にぜひ注目して、観察したら情報をお送りください!
このテーマは、渥美さんが観察地点を日頃からとても正確に入力しておられたおかげで気付くことができました。みなさんからの今後の記録も、可能であれば正確な地点を入れていただけるとありがたいです。
カバー写真などを募集します!
食性データベースのページのカバー写真に、食性データベースに登録した記録に関連する写真を使用することにしました。よく撮れた写真や興味深い採餌写真などがありましたらお送りください!詳しくはこちら。
参考文献
奴賀俊光, Norma, C. P., & 森川由隆. (2016). 千葉県鴨川市におけるイソヒヨドリ Monticola solitarius の繁殖生態. Strix, 32, 169–178.
鳥居憲親. (2019). 岩礁海岸におけるイソヒヨドリの採食生態. 日本鳥学会誌, 68, 367–373. https://doi.org/10.3838/jjo.68.367