シマクイナはこれまで稀な冬鳥とされていた鳥ですが,プレイバック法という調査手法が確立して,関東で越冬していることが明らかにされ(高橋ほか 2018,福田ほか 2019),九州でも越冬していることが示唆されていました(北沢・吉岡 2021)。今回,その情報の空白域だった中部から近畿にかけて調査を行ない,シマクイナの越冬状況を記録した論文が掲載されました。
松宮裕秋・沼野正博 (2022) 中部地方および近畿地方の太平洋岸地域におけるシマクイナの越冬状況.Bird Research 18: A87-A97.
論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.18.A87
松宮さんと沼野さんは2020年1月から2022年4月にかけて,静岡県,愛知県,三重県,和歌山県において,プレイバック法をもちいたシマクイナの生息確認調査を行ないました。その結果,調査を行なった34か所のうち,12か所で生息を確認しました。越冬期を通した生息が確認され,また,複数年記録された場所もあり,これらの地域もシマクイナの越冬地となっていると考えられました。
確認環境の多くは耕作放棄地に成立した湿性草地でした。そうした放棄地の中には調査期間中に乾燥化が進み,シマクイナが記録されなくなった場所があった一方で,放棄から20年以上経っていても,シマクイナが見られた場所もありました。放棄後の管理の有無,地形や気候による土壌水分の状況で,放棄地の植生遷移も大きく異なるようです。今後,耕作放棄地が増える中,日本の鳥がどうなっていくのかを考える上でも,こうした植生遷移の予測が重要になってきそうです。