夏の夕暮れ、軒下の巣を離れたツバメは渡りに備えて栄養を蓄えるため昼間は虫を捕り、夕暮れになると大群でヨシ原にねぐら入りします。ねぐらにはどれだけのツバメが集まるのか知りたくなりますが、ぐるぐる飛び回り、一度ヨシ原に入ってふたたび飛び上がったりと、動きが激しくて数をカウントするのが難しそうです。ねぐらに集まるツバメをどういう方法でカウントできるのか、ツバメのねぐらで個体数調査をしている例をご紹介しましょう。
ツバメが一方向から帰ってくる東京の多摩大橋ねぐら
ひとつめの例は、私自身も参加している多摩川ツバメのねぐら入りカウントチームによる多摩大橋ねぐら(図1)の調査です。多摩大橋は毎年バードリサーチがねぐら観察会を開いている場所で、河川敷で観察しているとツバメが真上を飛び回り、とても迫力のあるシーンが見られます。でも、ねぐらになっているヨシ原のそばで上空を飛び交う大群を数えるのは難しそうでした。
そこで、カウントをするためにツバメがねぐらに来る途中で待ち伏せることにしました。多摩川では夕方になると、ほとんどのツバメが上流方向から戻ってくることが分かっていて(※1)、多摩大橋ねぐらの周辺で観察したところ、図2の黄色い矢印のように河道と丘陵に沿って戻ってくるようでした。そこで白線の位置に人を配置して、日没の1時間ほど前から帰還するツバメのカウントをはじめました。多摩大橋でツバメを数える調査は以前にも行われたことがありますが(※2)、継続的に調査を行ったのは今年がはじめてです。調査を始めたのは8月11日からで、実感ではツバメの数のピークを少し過ぎているように思えましたので、来年はねぐらにツバメが増え始める7月初めから調査しようと考えています。カウントの結果は図3をご覧ください。
ツバメが広範囲から帰ってくる奈良の平城宮跡ねぐら
帰還ルートが決まっていると数えやすいという説明をしたばかりですが、奈良の平城宮跡ねぐら(図4)はそのような対策が通用しない場所です。「なら・ツバメらぼ」が2021年夏にねぐらへの帰還ルートを調査したところ、ねぐらの周囲5kmでは東と南から飛来するツバメが多く、西からの帰還は少数で、北からはほとんど帰還しないことが分かりました(図5)。ねぐら周辺は自然や水田の多い場所ですが、それでもツバメは四方八方に散って虫を捕るのではなく、多くのツバメが通う餌場が特定の方角にあるようです。しかし東から南にかけての方角が帰還のメインルートだとしても相当広い範囲になるので、なら・ツバメらぼのチームは大空を舞うツバメを見て数をカウントしています。
冒頭に書いたように大群が飛び回っているとカウントが難しいのですが、平城宮跡ではツバメの群が小さく全数を数えきれる時期からカウントを始めて、徐々に増えていく数を「前回の1.5倍なので●●羽くらい」というように把握しています。この方法ではツバメが多い時期になると数の正確さは下がるかもしれませんが、ツバメの個体数が変わっていくパターンは正しく記録することができると思います。2021年の平城宮跡ねぐらの個体数変化は、多摩大橋下流ねぐらの個体数と合わせて図3に表示しています。
ツバメねぐらの個体数変化の地域差を調べませんか
夏から秋の渡り時期、ツバメは北から南、東から西へと日本を移動していきます。今年は多摩大橋ねぐらの調査開始が遅かったのでピーク時期は分かりませんでしたが、各地のねぐらの個体数のピークと減少時期を比べることができれば、ツバメの渡りについて理解を深められると思います。正確な数のカウントができなくても個体数変化のパターンを把握できれば十分ですので、各地でツバメねぐらを観察している皆さんと協力して調査ができないかと思っています。来年の調査に協力していただける方は、koyama@bird-research.jpへご連絡ください。
平城宮跡ねぐらのツバメ移動調査はバードリサーチの調査支援プロジェクト(2020年)に選定された調査です。調査結果の報告は、なら・ツバメらぼのWebサイトに掲載されています。この記事は、なら・ツバメらぼの岩井明子さんの協力で執筆しました。
※1 多摩川流域ツバメ集団ねぐら調査連絡会 (2008) 多摩川流域ツバメ集団ねぐら調査報告. 多摩川流域ツバメ集団ねぐら調査連絡会, 東京.
※2 多摩川ツバメ集団ねぐら調査連絡会が同じ手法で実施した調査では、2017/8/12に11,782羽がカウントされ、今年8/11の11,290羽に近い数だった。