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研究誌新着論文:AI技術によるサシバの声の自動識別

バードリサーチニュース 2022年9月: 1 【研究誌】
著者:植田睦之

サシバ(撮影:渡辺美郎)

 バードリサーチにもたくさん協力依頼がくるのですが,AIをつかって鳴き声の自動認識をしようという試みが行なわれています。今回,掲載されたのは,サシバの声をAIで自動認識することができたという論文です。


前川侑子・田口華麗・牛込祐司・佐藤匠・小林啓悟・芳賀智宏・町村尚・東海明宏・松井孝典 (2022) AI技術による鳥類の鳴き声モニタリング手法の検討~サシバを事例として~.Bird Research 18: A71-A86.

論文の閲覧:https://doi.org/10.11211/birdresearch.18.A71

 

 前川さんたちのチームは,福井県,高知県それぞれ1地点のサシバの営巣地で音の収集を行ない,それをもとにサシバの自動認識方法について検討しました。認識のためには,最初のステップとして,長時間録音の中からサシバが鳴いている可能性のある時間帯を抽出すること。そしてその抽出された音の中にサシバの声があるかどうか識別することが必要になります。鳴いている時間帯の抽出には,音圧が1-3dB上昇したところを抽出するのが効果的で,識別には2-3秒の時間幅(このくらいの長さだとちょうどサシバの「ピックイ~」という声が含まれる:図1)で切り出して,「畳み込みニューラルネットワーク」とい方法で識別するのが良いことがわかりました。

図1 サシバの声のスペクトログラムと抽出時間の関係。1秒だとサシバの「ピックイ~」という声がおさまりきらず,2-3秒だと,ちょうど1つがおさまり,それ以上長くなると,複数の「ピックイ~」が入ってしまうのがわかる。


 1種ではなく,多くの種を対象にすると,種によって効率的な抽出・識別方法が違うこと,同時にたくさんの種・個体がさえずる小鳥類を,それぞれ区分して識別することの難しさ,録音から数をかぞえることの難しさなど,実際のモニタリングに使えるようになるのはまだまだ先のことだと思います。しかし,この分野は日進月歩なので,その実現に期待したいと思います。
 そうなれば,各地で録音したICレコーダのさえずり頻度をコツコツと聞き取る作業(植田・堀田 2022)が不要になります。それはうれしいのですが,「植田さん,現地調査行く必要ないですよ」とまで言われるようになったら,戦力外通告されたようで,寂しいことになりますね。