8月15日から19日にかけて開催された IOCongress2022(国際鳥類学会議)に参加しました。当初は南アフリカで開催される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響によりオンライン開催とすることが決定し、−7時間の時差がある日本にいながらの参加となりました。(ちなみに、ここではonlineで、ではなく、virtualで、という言い方がされていました。バードリサーチの鳥類学大会などではオンライン開催という言葉を使っていましたが、onlineよりもvirtualの方が一般的な言い方なのでしょうか。)
バーチャル会場は普通の二次元のホームページですが、仮想空間のような立体感を再現されていたようで、建物の中にいて奥行きを感じるようなデザインに設定してありました。写真を撮れないのが残念。
IOCongress2022のホームページはこちら(会場ではありません)
陸生鳥類のモニタリングについて発表
参加の第一目的は、主にアジア地域での陸生鳥類についての自由集会(Round Table Discussion)で、日本の陸生鳥類を対象としたモニタリングの体制や結果について紹介することでした。この自由集会は、バードリサーチの嘱託研究員であるシンバ・チャンさんが企画したものです。シンバさんは、シマアオジの保全に向けた取り組みの経緯と、シマアオジの危機的な状況が少しずつ認知されてきた現在の状況を紹介した後、東アジアで陸鳥のモニタリングを発展させるための情報共有プラットフォームの確立や調査者の育成の必要性を訴えました。
私の発表では、日本の陸生鳥類を対象としたモニタリングの実践例として、全国鳥類繁殖分布調査、モニタリングサイト1000、それから季節前線ウォッチの紹介をしました(図1)。2000人以上が参加した全国鳥類繁殖分布調査による詳細な分布情報や100年間の継続的なモニタリングを前提としたモニタリングサイト1000の事業は、多くの聴衆の関心を集めたのではないかと思います。季節前線ウォッチは、2005年以来蓄積したデータによるツバメの初認時期の早まりやウグイスの初鳴き予報のほか、中国、韓国、ロシアなど、日本国外からも情報が集まるようになってきた様子を紹介し、更なる参加を募集するアピールをしました。
自由集会では他に、韓国で減少しつつある陸生鳥類について(Kim Hankyu 博士)や、中国で、地球温暖化に起因すると考えられる生存率の低下によるカンムリオウチュウの減少について(Lei Lv 博士)の発表がありました。Kimさんによると、韓国では73%減だったアカショウビンをはじめ、森林性鳥類がこの20年間の間に大幅に減少したそうです(図2)。しかし、森林性鳥類でもセンダイムシクイやトラツグミ、ハシブトガラスなどは増加傾向にあります。減少している森林性鳥類は特定の環境を必要とする種で、より生物多様性の高い、不均質に撹乱も起こる「健康な」森林を必要とするのではないかとKimさんは述べていました。森林の成熟によって森林生鳥類が全般的に増加傾向にある日本とは異なる結果で、興味深いものでした。
今回のIOCongressでは、私が紹介した日本の陸生鳥類のモニタリングのような、バードウォッチャーと協働して得られるデータの重要性やそこから得られた保全上重要な成果についての発表が多くありました。基調講演でも2題が市民参加がもたらす鳥類学の発展を主題としたものだったので紹介します。
■アフリカにおける鳥類の保全(Bird Conservation in Africa)
Hazell Shokellu Thompson
話者はシエラレオネ大学の動物学講師として保全生物学のコースを設計・導入した保全生物学者で、大学やNGOで生態学や保全に関する教育や能力開発を行なってこられました。アフリカでの陸生鳥類のモニタリングプロジェクト: African Bird Atlas Project などを例に、アフリカで市民科学者の参加によってモニタリング体制が充実してきたことが紹介されました(図3)。
普通種についての個体数の増減の傾向を知ることは地域の生態系の様子を把握する上で重要であるものの、これまであまり記載されてこなかったこと、市民科学者がもたらすデータによってそれが埋められつつあることがよくわかりました。特に、ナイジェリアでは2016年にわずか3人で始まったモニタリング調査が2022年には230人のボランティア参加者を集め、重要な分布情報が得られるようになっていました。ここでは市民科学の取り組みに、鳥の識別や調査手法についてしっかりとしたトレーニングの要素を組み込むことの必要性とその効果が訴えられていました。ボランティア調査者を各国・各地で育てること、得られたデータを活用して公開し、結果を共有すること、大学・研究機関・NGOなどが協力してインターンシップを行うなどして研究連携を強化することなど、ボランティア調査のコミュニティを形成する例として学びのあるものでした。
■市民科学の力で鳥類を理解し、保全する(Harnessing the power of citizen science to understand & conserve birds)
Prof. Juliet Vickey
次に紹介するのはイギリスの例で、市民科学者と専門家が調査や解析を分担して大きな成果を上げているBritish Trust for Ornithology (BTO)でCEOを務める方の講演です。
BTOが主導する調査は多岐に渡り、特に繁殖分布調査、越冬分布調査はとても充実していることで有名です(BTOのページはこちら)。講演では、得られた記録を多くの研究者が解析して各種の減少や増加の要因を調べ、有効な保全策に繋げようとしている様子が詳しく紹介されました。ここでも、バードウォッチャーによる鳥の観察情報の提供がいかに保全上の重要な基礎情報となっているかが強調されていました。
特に印象的だったのはボランティア調査員の貢献の大きさです。BTOの活動には、年間2,029,493時間に及ぶボランティアの貢献があり、これはBTOスタッフの労働時間に換算するとなんと1247人分にもなるそうです。大きなプロジェクトである繁殖分布調査では1994以降、夏に2度調査をおこなっていますが、これには毎年3500人以上のボランティア調査員が参加しているそうです。私が紹介したモニタリングサイト1000の陸生鳥類調査は毎年400名ほどにお願いして継続できていますが、BTOの調査の規模の大きさに驚きました。
この他にもたくさんの発表があり、日本からの発表もときどきお見かけしました。2019年の調査研究支援プロジェクトに採択された西田澄子さんによる飼鳥の逸出についての発表などもありました。研究が形になって国際学会で発表されるのは素晴らしいことです。
たくさんの発表を見聞きして、まだ消化しきれていない内容や情報も多いので勉強しようと思います。