トモエガモは体長40cmほどの小型のカモで、雄はその名のとおり顔に鮮やかな巴柄があります。雌は色も大きさもコガモと似ていますが、くちばし付け根の白斑がコガモとの識別ポイントになります(図1)。トモエガモは東アジアだけに生息する種で、ロシアで繁殖し、日本、韓国、中国で越冬しています。しかし日本の個体数は20世紀後半に減少し、現在は環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されています。
2020/21越冬期はトモエガモが多かった
一時は少なくなっていたトモエガモですが、うれしいことに、日本の越冬数が増えてきているようです。昨越冬期(2020/21年)は各地から大きな群れが見られたという報告が届いたので、バードリサーチに集まっているデータを使って記録数を地図に表示してみました。(図2)。この図で分かるように、トモエガモは日本海側に多く飛来する傾向がありますが、太平洋側でも千葉県の印旛沼が大きな越冬地になっています。そして近年、特に大きな群れが飛来しているのが島根県の宍道湖で、2019/20年は約2万羽、2020/21年には4万羽を超える大群が越冬しました。それから、トモエガモを含めてカモ類は普通、夜間に陸地に上がって採食するのですが、宍道湖の群れの採食パターンは少し違っていて、朝と夕方に湖から飛び立って丘陵地の林内に降りるところが観察されていているそうです(佐藤ら 2021, 森・星野 2021)。ここではオシドリのように、ドングリなどを食べているのかもしれません。
2010年台から大群が見つかるようになってきた
日本にトモエガモが少なかったころ、2004年1月に実施された日本・韓国合同トモエガモカウント調査では、日本の総数は2,129羽で最大の群れは616羽でした。主要越冬地の韓国では658,140羽(そのうちなんと60万羽が1つの群れ)でした。トモエガモは想像を絶する大群を作るため正確なカウントが難しいようですが、韓国の2020年1月の水鳥調査でも406,351羽が記録されていて、いまも大きな集団が越冬しているようです。
一方、日本の個体数にも回復の兆しが見えてきました。環境省と都道府県が毎年1月に実施しているガンカモ類の生息調査(通称、ガンカモ一斉調査)によると、2010年代から宍道湖(島根県)や諫早湾(長崎県)でトモエガモの大群の記録が増えてきています(図3)。日本の越冬数が増えた理由は分かりませんが、韓国の越冬地からの分散や、かつて日本に渡っていたロシアの繁殖地で個体群が回復したなどが考えられます。大群が見られる越冬地は限られていますが、トモエガモはコガモの群れに少数が混ざっていることがあります。この冬コガモの群れを見つけたら、トモエガモの姿を探してみてはいかがでしょう。
参考文献
佐藤仁志・野津登美子・濱下奈津子・藤原政明. 2021. 2019–2020の冬に宍道湖に渡来したトモエガモの大群について. Strix 37:107-117.
森茂晃・星野由美子. 2021. 宍道湖に大量飛来したトモエガモの飛行行動と採食地. 日本鳥学会2021年度大会要旨集:102.
環境省. 2021. モニタリングサイト1000ガンカモ類調査 2021年度ニュースレター. <http://www.biodic.go.jp/moni1000/findings/newsflash/pdf/anatidae_2021.pdf>