バードリサーチニュース

2019年春の季節前線シギ・チドリ初認調査 季節前線シギチドリ

バードリサーチニュース2019年7月: 1 【参加型調査】
著者:守屋年史

 2012年から続く、シギ・チドリ類の春の初認記録調査を収集する”季節前線シギチドリ”2019年春期の調査では、九州南部地域から北海道まで72名の方から204件の報告をいただきました。ご協力ありがとうございました。

新たにホウロクシギを追加

図1 2019年春のホウロクシギ初認分布

 今年は新たにホウロクシギを調査対象に加えました。 九州の一部地域などではまれに越冬している場所もありますが、早春期に日本に渡来するシギ・チドリ類です。瀬戸内海や九州の太平洋岸で3月初旬に観察され始め、3月中には関東で観察されています(図1)。初認調査の対象種の中でも最も早い時期から記録されました。このホウロクシギについて、オーストラリアでは、今年20羽のGPSタグを装着して追跡しています(The Far Eastern Curlew Project)。GAVINと名付けられた個体は、オーストラリア北部のダーウィンを3/3に発って3/17に鹿児島県の奄美大島に到着しました。クイーンズランド州のモートン湾を3/11に発った個体は3/21日に奄美大島に到着、同じ場所から3/27に発った別の個体は沖縄に4/9~4/17まで滞在していました。これらの個体はその後本州方面ではなく、中国韓国方面へと向かいました。オーストラリアからのホウロクシギは、沖縄や奄美大島付近を通過して大陸経由で渡り、中国東北部付近で繁殖しているようです。日本の初認個体は日本により近い場所で越冬していた別ルートをとる個体群なのかもしれません。

今年の渡りの様子

図2 九州で観察された各種の2019年平均初認日(赤丸)と2012-2019年の平均初認日(青、エラーバー:標準偏差)キョウジョシギは条件に当てはまる報告がなかった。

 2012年から2019年に調査したメダイチドリ、ムナグロ、アオアシシギ、キアシシギ、トウネン、チュウシャクシギ、キョウジョシギ、オオソリハシシギ(オオソリハシシギは2015年から追加)の8種について、データの中から観察頻度が高く、越冬していなかった条件の初認日を抽出し、種ごとに各地域に分けて平均初認日を計算しました。

 渡来が早い九州地域の3月下旬から4月中旬では、ムナグロ、アオアシシギ、トウネンが例年より10日ほど早い傾向がありました(図2)。月の天気の概況を伝える気象庁の『日本の月の天候』を参照にすると、今年の九州では3月中旬くらいから4月中旬まで、高気圧に覆われることが多く降水量も少なく晴れの日が多かったため、早春期に例年より早めに渡来した種が多かったのかもしれません。一方、4月下旬頃は例年に比べ降水量が多かったのですが、九州で報告されるメダイチドリ、チュウシャクシギ、キアシシギは、例年とあまり変わらず平年並みでした。

図3 4月下旬から観察され始める種の2019年平均初認日(赤)と2012-2019年の平均初認日(青、エラーバー:標準偏差)

例年4月下旬からチュウシャクシギやキアシシギは国内で記録され始めます。今年は、西日本のキアシシギが例年より早かったものの(3/15に三重県で非常に早い報告がありました)、この2種はどの地域でも例年並みでした(図3)。天候は年により変化しますが、キアシシギは渡りの中継地でもほぼ同じ日に同じ場所で繰り返し観察される例があり、気候条件に左右されない規則正しさは種の特性によるものかもしれません。

 また2019年は、すべての対象種が5月10日頃までには北海道で観察されました。オオソリハシシギやキョウジョシギが例年より5日ほど早く北海道で初認され、ムナグロが5日以上遅く観察されています。ムナグロは日本の耕作地帯を利用するため、水田の水入れ時期など耕作状況によって影響を受けていると考えられます。オオソリハシシギは、4/18に北海道東部という早い記録がありました。キアシシギの記録と合わせて、早く渡来する群れが毎年のようにいるのか、今年の特徴なのか今後も検証していきたいと思います。

秋期の渡り状況調査

 今年は秋期の渡りについても情報収集しようと考えています。秋の対象種は、メダイチドリ、トウネン、ハマシギ、ソリハシシギ、キアシシギ、ツルシギの6種です。初認とは別に10羽以上の群れが観察できた場合もご報告ください。マイフィールドで対象種を観察されましたら、ご協力いただけますと幸いです。

結果の送信は季節前線シギチドリ秋期渡り調査もしくは、さえずりナビをご利用ください。

写真 水田で観察されたムナグロ