今年の8月30日、宮城球場で行われた楽天×西武の試合中にアカエリヒレアシシギの群れが飛び回り、試合が中断したことがありました(こちらに動画があります)。アカエリヒレアシシギが球場の照明に引き寄せられた例は過去にもあって、山階鳥類研究所には採集地が「後楽園球場(東京ドームの前身)」とラベルされた標本があるそうです。世界各地で人が住む都市は年々明るさを増していますが、夜空を飛んでいる鳥たちはアカエリヒレアシシギのように光に迷わされていないでしょうか? ニューヨークのライトアップ行事の調査から、人工照明が夜間に空を渡る野鳥の行動に強い影響を与えていることが明らかになりました。
人工照明と野鳥の関係を調べる調査地になったのは、2001年航空機テロ事件を記念して、ニューヨークで毎年9月11日に一晩だけ点灯される「Tribute in Light」です。これはサーチライトのような強く青い光を上空に向けて照射する行事で、この光は100km離れた場所からも見えるそうです。調査は2008~2016年のあいだ雨天の2年を除く5年間行われましたが、この行事が野鳥の渡りが盛んな時期と重なることもあって、調査の結果からライトアップされた5夜の間に、照明から半径5kmの範囲で110万羽の渡り鳥の行動に影響が出ていたと推定されています。
レーダーの観測によると、ライトアップされている時間帯は照明の上空を野鳥の大群が旋回して飛ぶようになり、周囲20kmの鳥の密度と比べると、照明上空の鳥の密度は平均でその20倍になりました。鳥の数は渡りの群れの通過によって変わりましたが、2015年9月11日夜のレーダー画像では、照明が一時的に消されていた時間には500m以内に500羽の鳥しか飛んでいないのに比べて、照明が再開された20分後には15,700羽もの鳥がレーダーに写り、そして照明の真上が最大密度になっていました。さらに、鳥の飛ぶ速度は照明に近づくほど遅くなっていました。これまで人工照明が鳥に及ぼす影響としては、鳥は視界が悪い状況下で明るい建造物に衝突するという、いわば特殊な状況下で死亡事故が起きることが知られていましたが、この研究では晴れた夜、地上の照明がかなりの上空(4km)まで影響を及ぼしていることが明らかにされました。著者らは人工照明によって鳥が正しい方角を見失い、また不必要に高度を変化させるために、かなりのエネルギーを消耗させているはずだと述べています。
「Tribute in Light」に集まった野鳥の群れ
この研究で調査された「Tribute in Light」は非常に明るい照明ですが、他の研究でも夜間に渡る野鳥は強い照明に引き寄せられることが分かっています。日本でもライトアップ行事などで明るい照明を使うことが、多くの渡り鳥を迷わせているかもしれません。