バードリサーチニュース

研究誌新着論文:銚子洋上風車周辺での海鳥の飛翔状況

バードリサーチニュース2017年9月: 2 【研究誌】
著者:植田睦之

銚子の洋上風車と調査に使った船舶レーダ

 

 海岸線に点々と建つ風車。最近は全国各地に建設され,見慣れた風景になってきていますが,その風車が海の中にもつくられようとしています。海の方が障害物がなく開けているので風が安定していて安定発電が可能であること,そして人家から離れた場所に建設できるので低周波騒音の問題など人との軋轢を少なくできるからです。
 そうすると,これまでの風車でオジロワシのバードストライクが問題になってきたように,海鳥と風車の関係が気になりますよね。そこで,千葉県銚子で2013年から行なわれた洋上風車の実証試験の際に,風車の周辺の鳥の動きを追跡し,その結果をまとめたのがこの論文です。この調査の結果,海鳥は風車を大きく避けており,バードストライクよりもその場所を鳥が使えなくなる問題の方が大きそうなことが見えてきました。

 

植田睦之・島田泰夫・奴賀俊光・佐藤功也(2017)銚子洋上風車周辺での海鳥の飛翔状況.Bird Research 13: S19-S25.

 

レーダに映ったウミネコとミズナギドリ類.種名は目視調査を同時に行なったためにわかったが,通常の観測では「鳥」としかわからない。

 調査が行なわれたのは銚子の南西沖3.1kmの位置に建設された1基の風車のまわりです。直径92mもある巨大な風車が2013年1月から動きはじめました。その直後の2013年とすこし経った2016年に,風車のそばに設置されている観測タワーより船舶用レーダを使って風車周辺の鳥の動きを記録したのです。
 その結果,鳥の多くは風車には近づかず,風車の南側と北側に200m以上離れた場所を東西に移動することが多いことがわかりました。そしてそれより近くを飛んだ鳥の多くは風車を迂回するように避けて飛んでいました。つまり海鳥は風車を避けて飛んでいて,バードストライクよりもその場所を鳥が利用できなくなる問題の方が大きそうなのです。また,2013年と2016年の結果を比べると2016年は2013年よりも風車の近くを飛ぶことが多く,「慣れ」などが生じている可能性も考えられました。

 この調査はレーダを使って鳥の動きを追っていますが,レーダには,鳥だということはわかっても種まではわからない,波が高かったり雨が降っていると鳥の動きを記録できないなどの問題もあります。風車への反応が違う種がいたり,悪天候の時は反応が違ったりするかもしれません。また,今回の調査地にある風車は1基だけですが,実際に建設されるときはたくさんの風車が同じ場所に建てられるので,鳥の反応も変わるかもしれません。そのため,今回の結果を「海鳥の風車への反応」として安易に影響評価にもちいるわけにはいきませんが,まずは風車への鳥の反応を記録できた貴重な記録だと思います。

論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.13.S19