足を運びにくい場所の鳥類相を調べたい,そんなとき利用できるのが録音音声です。私たちは福島第一原発事故によって避難指示区域となった地域とその周辺で録音を行い,鳥類相の変化を調べています。関心がある人は多くても,気軽に立ち入ることが難しいこの地域。私たちはこの録音データを「みんなで作った、みんなが使えるデータ」にしようと考え,録音音声による種判別をみんなでやるイベント、バードデータチャレンジを2015年7月4日に福島市小鳥の森で行いました。この試みとその課題についてまとめた論文が掲載されたのでご紹介します。
深澤圭太・三島啓雄・熊田那央・竹中明夫・吉岡明良・勝又聖乃・羽賀淳・久保雄広・玉置雅紀:バードデータチャレンジ ~録音音声の種判別における野鳥愛好家・研究者協働の試みとその課題~.Bird Research 13: A15-A28.
みなさんは鳴き声による種判別は得意ですか? 私はすぐに声を忘れてしまい,季節限定のさえずりなどは毎年覚えなおしているかもしれません。それに,録音音声を聞いていると鳥の声に眠気を誘われることもしばしば…。イベントではグループで同じ音を聞いて判別をすすめるので,自信がない声が聞こえても大丈夫。さらに,相談しながら行うこと,班毎の判別結果がすぐに部屋のモニターに写るといったゲーム的要素があることもあり,眠くならずにたくさんの音声を聞くことができました。参加者もそう感じた方が多かったようで,イベント自体は「楽しかった」と好評でした。しかし,この試みはまだはじまったばかりなので,このイベントで判別した結果のみでは鳥類相の変化について明らかにすることはできず,変化を知るという点では不満の声もありました。すぐにははっきりとした結果は出ませんが,毎年継続することで今後いろいろなことがわかってくるかもしれません。
また,このイベントの聞き取り結果はすべて正しいわけではありません。聞き取った記録の正解率は全体で0.88であり,シジュウカラ,ホトトギス,メジロ,ハシボソガラス,ヒバリ,ヒガラ,ツバメ,ハクセキレイ,クロツグミ,キビタキ,センダイムシクイ,ムクドリの誤判別が多いことがわかりました。記録数の少ない種で間違いが起きると解析結果への影響が大きいので,そうした種について再確認をすることにより,効率的にデータの精度を高められると考えられます。
2016年以降も音声の録音,イベントを毎年行っています。また,「みんなが使えるデータ」の第一歩として,判別したデータを地図上でみられる「KIKI-TORI MAP」を作成しました。「KIKI-TORI MAP」には,私たちが行っている調査の詳細やバードデータチャレンジを紹介する以下のウェブサイトからアクセスできます。
野鳥のこえからわかること -福島第一原発事故にともなう避難指示区域とその周辺の鳥類モニタリング- http://www.nies.go.jp/kikitori/
今年は西白河郡で
今年のバードデータチャレンジは10月14日(土)に福島県南部,栃木県との県境の西白河郡で行う予定です。識別能力の高い人から,あまり自信がない方まで,どなたでも参加できますので,データを作ってみたい,鳥の鳴き声の復習がしたいなど,興味がある方は是非ご参加ください。
参加申し込み http://www.nies.go.jp/kikitori/contents/bdc_2017.html
論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.13.A15