海面に浮いて休息するオオミズナギドリは、海流に流されるため、オオミズナギドリに装着されたGPSの位置データの軌跡から、その場の詳細な海流を知ることができます(Yoda et al. 2014)。このように、動物を利用した環境観測は、人間が行くことができない場所の情報や気象衛星では測定できない詳細な情報を得ることができる点で、新しい観測手法として期待されています。
今回紹介するのは、海鳥の飛行速度と飛行方向から、海上風の詳細な風向風速を知ることができる、という論文です(Yonehara et al. 2016)。
東京大学大気海洋研究所の米原さんたちは、小型のGPSロガーをオオミズナギドリ、コアホウドリ、ワタリアホウドリに装着し、1秒ごとの位置情報から飛行速度と飛行方向を算出しました。これらの海鳥は海上を吹く風を利用し、羽ばたかずに飛ぶことができます。その飛行速度は、風速と風向によって変化します。追い風の時に飛行速度は最大になり、向かい風の時には最小になると考えられるので、飛行速度の変化から海上風の風速と風向を推定しました(下のリンクから米原さんらの論文の図、Fig. 1を見ると、海上風推定のイメージがしやすいと思います)。こうして得られた風向風速のデータは、衛星によって計測された風向風速の値と有意に相関しました。
陸に近い沿岸域では、地形による風の変動があるため、オオミズナギドリのように沿岸域を飛翔した時には、風向風速の推定は難しくなるそうです。しかし、陸から遠く離れた沖合を飛翔するワタリアホウドリでは、推定した風向風速のデータは、測定高度の違いから多少の誤差があるものの(衛星は高度10mの風を測定しているのに対し、アホウドリ類の飛翔高度は3~8m)、衛星のデータとよく合いました(論文中のFig. S6)。海鳥を利用した海上風の観測が新しい観測手法になることが証明されました。
海鳥の高い移動能力、長い飛行時間を利用すると、広範囲の海上の風向風速を観測することができます。衛星観測や海上の観測ブイ、船舶による観測に海鳥による観測データを合わせることで、これまでよりも詳細な海上風観測データを得ることができるようになると期待されています。
海上風のデータは、他の観測データと共に、天気予報や海洋環境の説明に使われます。例えば、海水温や海流などのデータと合わせ、どこにプランクトンが集まっているかとか、プランクトンを食べる魚が多いとかがわかり、漁業にも役立つかもしれません。海鳥が集まる場所もわかるようになるかもしれません。気象・海象情報から海鳥が集まる位置を割り出す「鳥群探知機」とかできないでしょうか。
引用文献