バードリサーチニュース

ドローンを利用したガンカモ調査

バードリサーチニュース2016年2月: 1 【活動報告】
著者:神山和夫

ドローン飛ばす


ドローンとはどういうものか?

ここ数年、ドローンと呼ばれる電動ヘリコプターの利用が盛んになってきました。手のひらサイズのおもちゃのようなものから重さ数キロになる産業用の機種まで、さまざまなタイプが販売されています。ドローン(drone)とは英語で雄のミツバチを意味する言葉で、1930年代にアメリカ海軍が開発した標的用無人機が、先にイギリスで開発されていた無人標的機「Queen Bee(女王蜂)」に対して「Drone(雄蜂)」と呼ばれたことが語源だそうです。現在では、ある程度自動化された無人の移動機器(飛行機、車両、船など)を指す用語になっていますが、日本でドローンと言えば、4~8枚のプロペラを持つ電動マルチコプターを指すことが多いようです。本記事でもマルチコプターという意味でドローンという言葉を使います。

電気モーターはガソリンエンジンに比べてパワーが小さく、飛行時間も短いのですが、安価でメンテナンスも不要です。そして、機体に搭載されたコンピュータが各モーターの回転数をコントロールしてバランスを保ちながら飛ばすという、ガソリンエンジンには真似のできない機能のおかげで簡単に操縦することができることも、近年ドローンが爆発的に広まっている一因だと思います。もちろん機種にもよるのですが、私が始めてドローンを操縦したときは、まるでテレビゲームで乗り物を操縦しているかのように、簡単に空を飛ばせることに驚きました。


ガンカモ調査で利用できるか?

FPVとジンバル

写真1. 上:DJI社のPhantom3.タブレットやスマートフォンで映像を見ながら操縦する(写真はA4のiPad). 下:カメラは機体の傾きや振動に影響されず一定方向に保持される.

自然環境の調査では、従来の航空機の代わりにドローンで地形を撮影してGISで利用するような用途はあったのですが、野鳥調査でドローンを使った事例で発表されているものは数えるほどしかありません。とはいえ、ドローンの性能は数年前に比べると格段に進歩しているので、今後、さまざまな野鳥調査での利用が始まることでしょう。

バードリサーチが使用しているのは中国のDJIというメーカー製のPhantom3という機種で、大きさは約30cm四方、重さが1.3kgの機体です。これはドローン全体から見ると中型で、十数万円という価格でも中位ランクの機体です。小型のデジカメと同程度の性能のカメラが内蔵されていて、そこからリアルタイムで送られる映像を見ながら操縦し、必要な場所で動画や静止画を撮影することができます(写真1)。

さて、バードリサーチではガンカモ調査でドローンを利用しようとしています。ガンカモの個体数が非常に多い、見やすい観察地点がない、観察地点からの距離が遠いなどの理由で目視調査が難しい場合の代替手法として、空から撮影して数をカウントできるかや、ガンカモへの影響、運用の安全性などを調べるための試験を、昨年の秋からモニタリングサイト1000ガンカモ類調査の一環として行ってきました。


ガンカモはドローンを警戒するか?

まず心配なのは、ガンカモがドローンに驚いて逃げてしまわないかということです。高度100~150mにドローンを上昇させてからガンカモの群れの上空に移動し、ゆっくり下降させながら反応を調べました。結果は表1に示すように、ほとんどドローンを警戒しないことが分かりました。いちばん人を恐れないオオハクチョウがドローンを気にしたのが意外でしたが、日本へ渡ってきて間もない個体だったのかもしれません。ドローンへの警戒心の強さは時期や生息地によって異なるでしょうが、対象種がドローンを警戒しない場合が多く、空からの調査は可能だと思われます。

表1. ガンカモのドローンへの反応

表1. ガンカモのドローンへの反応


識別可能な写真を撮影できるか?

伊豆沼のオオハクチョウとマガン

写真2. 伊豆沼で撮影. 上:高度100mではオオハクチョウはよく見えるが,マガンは見落としが出る. 下:高度50mになるとマガンがよく見える.ドローンの真下でも,飛んできて着水する個体がいた.

広い水面に散らばるガンカモを撮影するためには、なるべく高い高度から広い範囲を撮影して、複数の写真をつなぎ合わせる必要があります。あまり高すぎると写真が不鮮明になりますが、Phantom3のカメラではハクチョウなら150m、マガンやカモ類では50mが適当な距離でした(写真2)。高度50mから撮影できる範囲は約100m四方で、調査地によってはかなりの枚数の写真を撮影しないといけません。目印のない水面で規則正しい位置から写真を撮影してつなぎ合わせる技術が、これからの検討課題になっています。

種や雌雄を識別するにはもっと高度を下げる必要がありますが(写真3)、撮影範囲が狭くなると数を調べるという目的を果たせなくなりますから、いまのところドローンによる空撮調査は、あらかじめ同じ種が群れになっていることがわかっている場合にだけ可能ということになります。

ところで空撮した写真を見てみると、マガンやマガモの群れでは、岸から見て想像していたほど密に群れているのではなく、一定の個体間距離を保っているようでした。ガンカモの群れを時系列で空中撮影していけば、つがいの形成の進行などを調べられるのではないかと思いました。

夏目の堰のマガモ

写真3. 千葉県の夏目の堰で高度20mからマガモを撮影.この高度だとカモのオスは種の識別ができそうです.


カワウの個体数管理で利用

ドローンでひも張り

写真4. カワウ対策用のビニールテープを張る.(写真提供 坪井潤一)

調査以外では、カワウの個体数管理のためにドローンが利用されている例があります。水産総合研究センターの坪井潤一さんは、カワウのコロニーの拡大を抑制するため、既存のコロニーの周囲の樹木にドローンを使って生分解性のビニールテープ紐を張る手法を考案しました。以前は釣りざを使ってテープを張っていたのですが、ドローンにテープのロールを付けて空中から引き回すことで、数百メートルのテープを効率的に張り巡らすことができるようになりました(航空法で必要とされる許可を得て実施しています)。カワウはテープが張られている樹木を嫌がり営巣しないのだそうです。この方法はこれまでに、群馬県の高津戸ダム上流など数か所で実施されています。


ドローンの規制について

一時期ニュースを騒がせたドローンの利用規制について説明しておきましょう。残念なことに、ドローンの利用者が多くなるにつれて事故や迷惑行為が増えたため、2015年12月から重量200g以上のドローンについて、人口密集地での飛行、夜間の飛行、プログラムによる自動操縦、ドローンに搭載されたカメラのリアルタイム映像による操縦、物の投下などは、事前に国交省の許可が必要になりました。ドローンは操縦者から100m離れると目視が難しくなるため、リアルタイム映像を見ながら飛行させることが一般的な操縦方法ですから、ほとんどの利用で許可申請が必要になる大変厳しい規制になっています。極端に利用しにくい仕組みにするのではなく、安全と利便性のバランスを考えた制度や、安全技術の進歩をうながすような規制が望ましいと思います。



追記(2016年6月16日)
 「カワウの個体数管理で利用」のセクションに、航空法で必要とされる許可を得ている旨を追記しました。