回復しつつあるヒクイナの生息状況
1970年代までは,ヒクイナはおもに夏鳥として全国の河川や湖沼の水辺の草むらや水田などに生息していました。ところが,1990年代になると,主に生息環境の悪化から日本各地で出現率が低下しました(樋口ほか 1999)。バードリサーチではいち早くヒクイナの生息状況に目を向け,ヒクイナ調査を実施してきました。その結果,全国の皆さんのご協力により,2000年代後半になると本州中部以西の地域ではやや回復傾向にあることがわかってきました。さらに,最近では西日本を中心に冬でも普通に生息していることが分かってきました(渡辺・平野 2011)。
越冬期の分布は拡大中?
図1-aは,1986年に実施された環境省の自然環境保全基礎調査(環境省 1988)を基に表した越冬分布です,当時,ヒクイナは九州地方や沖縄県,山口県で生息が確認されていただけでした。ところが,当会が実施したアンケート調査や文献調査では2006年から2015年の3月時点で,ヒクイナは九州地方や四国,中国,近畿,東海地方,関東の1都2府25県で冬期に生息が確認されています(図1-b)。ヒクイナは生息の確認の難しい鳥なので,分布や生態についての知見が増えたことで,現在多くの地域で生息が確認されるようになったことも否定できません。しかし,20数年間でヒクイナの越冬分布が著しく拡大した可能性があります。
地球温暖化は,鳥類の生態に影響をおよぼすことが知られています(小池・樋口 2009)。だとすると,ヒクイナの越冬期の分布拡大は,やはり地球温暖化の影響なのでしょうか。もしそうなら,積雪が多い地域や冬期の気温が低い地域でも冬に生息するようになったのでしょうか。さらに,冬期の記録は関東地方など東日本では少ないのですが,調査が行なわれていないためなのでしょうか。
そこで,冬期のヒクイナの生息分布の実態を調査し,今後の越冬分布の変化の基礎資料とするために再度ヒクイナ調査を実施することにしました。しかし,ヒクイナは冬期にはほとんど鳴かないため,普通の観察では生息を確認しにくい鳥です。そこで,調査は鳴き声再生法をもちいます。おもに朝夕の調査になりますが,もし,調査に参加していただける方はぜひご連絡いただければ幸いです。鳴き声再生に使用する音源と調査マニュアルをお送りいたします。また,野鳥観察等の際に偶然にヒクイナを観察された場合も,ぜひ以下のサイトから記録をご提供いただけましたなら嬉しい限りです。
なお,近年,ヒクイナも写真撮影の対象となっているようですが,調査結果の発表に際しては,生息地点の詳しい地名の公表などを行ないません。
ヒクイナ調査の問い合わせ先:バードリサーチ 平野敏明 hirano@bird-research.jp
記録の送付先:http://www.bird-research.jp/1_katsudo/hikuina/index_genchi.html
引用文献
樋口広芳・森下英美子・宮崎久恵.1999.アンケート調査からみた夏鳥の減少.樋口広芳(編)夏鳥の減少実態研究報告.東京大学渡り鳥研究グループ,東京.
環境省.1988.第3回基礎調査動植物分布調査報告書 鳥類.
小池重人・樋口広芳.2009.地球温暖化と鳥類の生活.樋口広芳・黒沢令子(編)鳥の自然史.北海道大学出版会,札幌市.
渡辺美郎・平野敏明.2011.神戸市西区周辺におけるヒクイナの生息状況.Bird Research 7: A45-A55.