バードリサーチニュース

シロチドリ、どうして卵を埋めるの?

バードリサーチニュース2015年7月: 5 【論文紹介】
著者:奴賀俊光
写真.シロチドリの卵.①埋められていない卵.②~④様々な埋められ具合の卵.砂で埋められていたり,貝殻片がかけられていることも.

写真.シロチドリの卵.①埋められていない卵.②~④様々な埋められ具合の卵.砂で埋められていたり,貝殻片がかけられていることも.

 シロチドリの巣を見たことがありますか?砂浜を歩いていると,不意に足元にシロチドリの巣を発見することがあります(ごくまれにですが・・・).よく見ると,砂や巣材で卵が1/3~半分くらい埋まっている場合があります(写真).これは埋まってしまったのではなく,親鳥が自分で埋めたのです.抱卵期間の合間に親鳥が巣を離れて外出することがあり,その際卵が捕食者に見つかりにくいようカモフラージュのために埋めると考えられています.しかし,Amatさんら(2012)は,シロチドリが卵を埋めるのは,卵を隠す以外にも温度調節の役割があるのではないかと考え,実験的にこの仮説を検証しました.

 

卵を埋めれば一石二鳥?

 まず,卵を埋めることが本当にカモフラージュとして機能しているかを確かめるため,卵と巣の色彩の差を調べました.その結果,卵が埋められていると卵と巣で色彩差が低い,つまり,一般的に考えられているようにカモフラージュの効果があることがわかりました.
 卵の埋められ方は時間帯によって異なっているようで,15巣について,晴天の日の早朝,午前,午後,夕方に定期的に見回り,卵がどの程度埋められているか調べたところ,午前中により深く埋まっているという結果でした(表).表5

 さて,ここからが本題です.卵埋めが温度調節に役立っているかどうかを調べるために,Amatさんらは放棄卵の中に温度計をいれた人工卵を作り,卵の温度と周囲の温度,抱卵時間との関係などを調べました.周囲の温度と卵温度の関係を調べたところ,周囲の温度が27℃以上の時は埋められた卵は埋められてない卵よりも温度が高く,逆に27℃以下の時は、埋められていない卵の方が温度が高くなりました(図).

図.周囲の温度と卵温度の関係(Amat et al. 2012より作図).

図.周囲の温度と卵温度の関係(Amat et al. 2012より作図).

ところで,実験が行われた南スペインではこの時期,午前中の巣の周囲の温度は28.0~30.5℃で,このとき埋められている卵は35~38℃になります.実は,シロチドリの胚発生に最適な卵温度はまさに35~38℃.午前中に卵を埋めておくことは,胚発生のために理にかなっているのです.
 一方,気温の低い早朝は,卵を埋めると温度が低くなりすぎ,気温が高くなる午後は,逆に温まりすぎてしまいます.カモフラージュのためには時間帯に関係なく卵を埋めておいた方がいいことになりますが,卵温度のことを考えると埋めない方が良い・・・その葛藤の結果,午前以外の時間帯では卵を埋める割合が少なくなると考えられます.
 親鳥が巣を離れるとき,卵は外敵からも,外気温からも無防備な状態です.卵を埋めることで,外敵から隠し,温度調節にもなり,親鳥は安心して外出できるのです.

 

防衛戦略と卵埋め

 コアジサシもシロチドリと同じような環境で繁殖しますが,コアジサシは卵を埋めません.集団で営巣するコアジサシは,外敵が来た時も集団で迎撃し,積極的に卵やヒナを防衛します.単独で営巣し,体も小さいシロチドリは,コアジサシのように積極的に防衛することができず,せいぜい擬傷行動(傷ついたフリ)によって敵の目をそらす程度.せめて卵を隠して,外敵に発見されないようにしているのでしょう.こうした防衛戦略の違いも,卵を埋めるかどうかの選択に表れているのかもしれません.

 

引用文献

Amat, J. A., Monsa, R. and Masero, J. A. 2012. Dual function of egg-covering in the Kentish plover Charadrius alexandrines. Behaviour 149: 881–895.