バードリサーチニュース

季節前線シギチドリ  今年は北海道を駆け足で通過

バードリサーチニュース2015年6月: 8 【活動報告】
著者:守屋年史

 今年の春も季節前線シギチドリの対象種の初認情報を募集しました.今年度は,63名の個人・団体から情報を提供していただきました.ご協力ありがとうございました.寄せていただいた情報から,「よく行く場所の初認記録」を中心に,今年の結果と昨年の結果を比較しながらみてみました.

本州でのんびりしていた?ムナグロ

 早春に観察されるメダイチドリは,2014年,2015年ともに4月初旬に東北地方まで観察されています.北海道南西部への到達も,2014年は4/24,2015年は4/23と両年とも同じぐらいでした.

 ムナグロは,本州太平洋側で4月初旬から報告され始めましたが,東北以北への渡来が遅く,北海道への到達は5/9で昨年よりも2週間遅い結果となっています(図1).後述しますが,シギ・チドリの移動が早かったと考えられる今年の渡りで,ムナグロだけは北上が遅い結果となりました.原因は不明ですが,ムナグロは春期に農耕地に集結して渡っていきます.干潟とはまた異なった理由があるのかもしれません.

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図1. 2014年と2015年の4月中旬までのムナグロの渡来ライン.2014年は,4/20頃までに東北太平洋岸で観察されており,4/24に北海道に到達.2015年は5/9日に北海道で観察された. Photo by  三木敏史

図1.2014年と2015年の4月中旬までのムナグロの渡来ライン.2014年は,4/20頃までに東北太平洋岸で観察されており,4/24に北海道に到達.2015年は5/9日に北海道で観察された.

 

多くの種が足早に通り過ぎた

 キョウジョシギは4月の中旬頃から報告があり,東北までの到達は2014年と変わりませんでした.北海道への到達は4日遅れましたが,オホーツク海側では昨年より10日ほど早く観察されています.トウネンも同様で,東北までの初認は昨年とほぼ同時期,北海道への到達は2日遅く,オホーツク海側での観察は4日ほど早い結果となっています.

 チュウシャクシギ,キアシシギは春期の渡りの終盤に観察され始めます.チュウシャクシギの全国で最も早い報告は2012年が4/15,2013年が4/11,2014年が4/9と年々早まっており,2015年は4/5でした.北海道への到達は4/25で昨年と同じですが,オホーツク海側での観察は昨年より8日早い5/11になっています(図2).キアシシギは,2012年以降,4月の15~20日に初報告がありましたが,今年は4/12に東北で報告されました.北海道での初認はオホーツク海側で,昨年より6日早い4/30となっています.昨年に比べると,北海道の太平洋側からオホーツク海側への移動が早まった種が多いようです.

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図2. 2014年と2015年の北海道のチュウシャクシギの渡来ライン.2015年は,オホーツク海側への到達が早かった. Photo by 三木敏史

図2.2014年と2015年の北海道のチュウシャクシギの渡来ライン.2015年は,オホーツク海側への到達が早かった.
Photo by 三木敏史

 今年から対象種に含めたオオソリハシシギは,3月下旬には九州,山口,宮城で報告され,5/11に北海道で報告されました.本州以南には早く渡来するようですが北海道への渡来は遅く,中継地で長逗留するのかもしれません.

今年は4月下旬から好天続き

 シギ・チドリの渡りは,彼らが日本を通過する4月~5月の間の天候に左右されると考えられます.今年は4月上中旬に暖かく湿った空気が流れ込み,不安定な天候でしたが,下旬は好天が多く,北日本を中心に日照時間がかなり長くなりました.5月も引き続き日照時間が長く,1946年の統計開始以来5月の最長記録を更新しています.また,4~5月の気温は総じて平年より高く,北・東日本では,月平均気温が観測史上最も高い値を更新した観測地点が55箇所もありました(気象庁:平成27年報道発表資料).このように今年は気温が高く好天だったために,種によっては中継地での滞在が短かく,滞留する鳥達が少なかった可能性があります.そのため,一度に観察される最大個体数は昨年に比べて減少しているかもしれません.夏頃には,モニタリングサイト1000シギチドリ類調査の春期のシギチドリの個体数の報告がおこなわれますので,上記のような状況を踏まえて考察していきたいと考えています.

 水鳥の初認調査は,観察者が水際に行く必要があることがネックで,毎日の観察が難しいのが現状です.しかしそれでも,水辺をマイフィールドにされている方々の報告により,水辺の渡り鳥の移動が分かってきています.今後ともご協力よろしくお願いいたします.