予測って難しいですよね。堅調な日本の企業の決算発表やアメリカの利上げの先送り観測から「まだまだ株は上がるね」って予測していたのが,予測に入れていなかった「チャイナショック」という要素が入ってきたことで,途端に予測は破綻してして・・・。残念。未知の要素が予測を難しくします。
鳥の研究や保全の場でも予測は重要です。よく使われるのが土地利用状況から生息適地を予測する生息地モデル。これがあることで,その種にとって重要な場所がわかり,保護のための優先順位を検討することができます。ぼくも以前,サシバの生息地モデルをつくったことがありました(百瀬ほか 2004)。ぼくの調査地のサシバの生息密度は水田と接する林縁の長さなどできれいに予測できました。そしてこのモデルは他地域に持って行ってもサシバの多い場所の予測は可能でした。でも,相対的な予測はできても,何羽くらいいるかという数の予測となると,上手くいきません。地域による密度の違いを決めている,重要な「未知の要素」をモデルに入れることができていないため,上手く予測ができないのでしょうね。
こうした要素を明らかにし,さらにモデルに入れるために必要な広域なデータを得ることは難しいのですが,スコットランドのタゲリでは,土地利用以外に,土壌の質を加えることで,予測が良くなったそうです。
この研究をしたのはイギリスのMcCallumさんたちのチームです。スコットランドのタゲリの繁殖分布を調べ,生息地モデルをつくりました。スコットランドではScotish Soil Sureyという10kmメッシュの土壌状況を調べたデータがあるそうで,それを環境要素,標高のモデルに加えることにより,生息地モデルの精度が大きく改善されました。モデルによると泥炭の度合が低く,酸性度合の低い土壌の場所で,かつ標高の高いところのタゲリの生息密度が高いことがわかりました。 おそらく低地は集約農業が行なわれていてタゲリにとって良くなく,土壌要素は食物となる虫などの密度に影響しているのではないかと思われます。
ヨーロッパは土壌の酸性化が進んでいて,酸性土壌の場所ではカマドムシクイ Seiurus aurocapilla の密度や一腹卵数が減ることも知られています(Pabian & Brittingham 2011)。比較的土壌が酸性化していない日本でも,土壌による鳥の分布への影響はあるのでしょうか? ぜひ知りたいところですが,スコットランドのような土壌のデータって日本にもあるのかな? 国土数値情報ダウンロードサービスではみあたりませんでした。残念。