バードリサーチニュース

セッカとホオジロの分布変化

バードリサーチニュース2019年2月: 1 【活動報告】
著者:植田睦之

 先月のニュースでは東京で減っていてレッドリストへの掲載を検討すべき鳥についてご紹介しました。そうした鳥の中にはセッカやホオジロなど草地にいる鳥が多くいました。そこで,今回はセッカとホオジロについて,どんな場所で減少したのか,ちょっと細かく見ていきたいと思います。

河川中流のヨシ原が貴重な生息地に

 1970年代,1990年代にも行なわれている東京都繁殖分布調査の結果と今回行なっている調査の結果を比べることで,東京のセッカの1970年代から分布変化を見てみました。1990年代の結果は2017-18年に現地調査を行なったコースと単純に比較できたのですが,1970年代の情報は分布図作成に使ったデータしか残っていなく,現地調査の情報とアンケート情報を分離することができず,その比較は1970年の分布を過大評価にしてしまっています。しかし,セッカのさえずりは目立ち,現地調査での生息の確認は容易なので,それほど大きな問題ではないかと思います。

図1 東京都のセッカの分布の変化。:1970年代には記録され,1990年代以降は記録のなかったコース,:1990年代は記録され,今回は記録されなかったコース。:今回記録できたコース(写真:内田博)


 1990年代以降,セッカが記録できなくなった場所(図1の赤い丸)は隅田川,荒川,江戸川の流域および河川沿いでない場所に目立ちます。1970年代は,ちょうどぼくが子供だった頃で,セッカがいたかどうかは記憶がないのですが,空き地にはススキ原があったり,麦畑,陸稲田,水田もそれなりにありました。そうした場所がセッカの生息地になっていて,その消失とともに河川以外の場所からセッカがいなくなってしまったのかもしれません。
 1990年代から現在にかけては,多摩川の下流部や上流部でも記録できなくなったコースがでてきていて,現在は多摩川中流にある河川敷のヨシ原がセッカの重要な生息地になっています。下流部は草地のグラウンド化,上流部は,よくわからないのですが,河川敷が樹林化していることなどが原因で生息しなくなっているのかもしれません。


ホオジロは山地部でも

 ホオジロは,山地部にも生息しているという点がセッカと異なっていますが,平地部における減少傾向はセッカと似ていました。セッカと同様,1970年代から1990年代にかけて河川以外の場所からはいなくなっていました(図2)。中南部の町田の丘陵地帯では1990年代にはまだ記録されていましたが,今回の調査では記録できなくなっている場所がさらに増えていました。また,山でも特に1970年代から1990年代にかけて記録できなくなった場所が目につきます(図2)。ホオジロは山では伐採後の若齢植林地でよくみかけますので,時期的に考えても,植林された木が大きくなって生息に適さなくなったのかと思います。

図2 東京都のホオジロの分布の変化。 :1970年代には記録され,1990年代以降は記録のなかったコース,:1990年代は記録され,今回は記録されなかったコース。:今回記録できたコース(写真:内田博)

 

太平洋地域中心のセッカの分布

図3 セッカの分布の1997-2002年から2016-18年にかけての変化

 では,全国ではどうなのでしょうか?全国鳥類繁殖分布調査の結果を見てみました。分布図を見ると,セッカって太平洋側の鳥なんですね(図3)。1970年代は日本海側でも少ないながら記録があったのですが(環境省 2004),この傾向はさらに強まっているようです。上田恵介さんの大阪の研究では,繁殖期と越冬期で個体が入れ替わるということで(上田 2006),また図鑑にも寒い地域のセッカは南へと渡ると書かれています。それなら,積雪のある日本海側でもセッカが分布していてよさそうな気がします。しかし,標識調査の記録を見ると,長距離移動の記録は3例しかなく(鳥類アトラスWEB版),それも近距離での回収記録ばかりでした。もちろん小さくて捕獲しにくいセッカの特性もありますが,回収率も0.02%と,ほかのヨシ原にいる鳥(オオジュリン 1.9%,コヨシキリ 0.2%,オオヨシキリ 0.1%)よりかなり低いので,意外と移動は少ないのかもしれません。そうだとすると,冬の積雪の多い地域ではセッカが生息するのが難しく,その結果として太平洋側に多い分布になっているのかもしれません。また,前回はいなかった宮城で多く記録されているところも気になるところでした。分布が北上しているのでしょうか? それとも震災に伴う環境変化の影響でしょうか? 注目していきたいと思います。

森林での減少が多い?

図4 ホオジロが見られなくなった調査地128コースの環境の割合

 対してホオジロは北海道道東道北を除く全国に分布していて,分布変化にも地域的な偏りはありませんでした。そこで,ホオジロが記録できなくなった調査地(128コース)の環境について見てみました。
すると6割以上が森林中心とした調査地が占め,里山を含めると約8割でした。東京で大きく減少していた住宅地や農地は1割程度とあまり多くありません(図4)。全国でホオジロが記録されたメッシュ数は,1970年代はウグイスに次ぐ2位と日本の最優占種とも言える鳥でした。しかし今回の全国調査では,現時点でヒヨドリ,ハシブトガラス,キジバト,シジュウカラの方が上位になり,ホオジロは6位です。日本の面積の多くは森林が占めていますので,若齢林の減少などにより森林でホオジロが見られなくなっていることがこうした順位変化に影響しているのだと思われます。