1980年代。今は亡き千代の富士が輝いていたとき。鳥の世界では夏鳥の減少が話題になっていました。そして,1990年代に入り,夏鳥の減少について書いた本や論文が多数発表されました(たとえば遠藤 1993,山本・背戸 1997,Higuchi & Morishita 1999)。鳥類繁殖分布調査でもチゴモズ,アカモズ,サンショウクイの減少が示され,レッドリストに掲載されるまでになってしまいました。
そして今。夏鳥たちはどうなっているのでしょうか? 今年から始まった全国鳥類繁殖分布調査の結果から,彼らが復活している可能性が見えてきました。
全国鳥類繁殖分布調査は1970年代と1990年代に環境省により行なわれ,今年からバードリサーチ,野鳥の会などの5団体のNGOや大学等研究機関,環境省などの官民学の合同調査として,全国のたくさんの方々の参加のもと,2020年までに全国の鳥の今を明らかにしようと行なっている調査です。調査に参加している皆さまありがとうございます。調査はまだ始まったばかりですが,今年行なった現地調査の結果と1990年代に行なわれた調査の結果を比べ,鳥たちの分布の増減についてみてみました。
鳥種別に「1990年代はいたのに今回は記録されなかったコース」「1990年代も今回も記録されたコース」「今回初めて記録されたコース」に分けて集計したのです。
留鳥の分布は変わらず,夏鳥は復活傾向?
記録数の多い普通種について見てみると,カラ類,ヒヨドリ,スズメなどの留鳥は1990年代も今回も変わらず両方記録されているコースが大部分を占めました(図1)。このことはこれらの鳥の分布が大きく変化していないことを意味します。ただし,分布がやや広がっている可能性のある鳥もいました。今回記録されなくなったコース,新たに出現したコースを比較するとヤマガラ,ヒヨドリなどは今回新たに出現したコースが多かったのです。
それに対して夏鳥は顕著に分布が広がっているようでした。オオルリは顕著な傾向はありませんでしたが,アカショウビン,サンショウクイ,キビタキは,今回の調査で新たに出現したコースが多かったのです。1980年代から1990年代にかけて減少した夏鳥が復活してきているのかもしれません。
キビタキは低地と南の地域で分布を拡大?
ではどんなところで分布が拡大しているのでしょう?データ数の多いキビタキについて見てみました。
「最近,低地の林でキビタキを見るようになった」という声を耳にしますので,まず,標高について見てみましょう。標高100m以下のコースとそれ以上とに分けて,新たに記録されたコースと前回も記録されていたコースの比率をみました。100m以下では,新たに記録されたコースの比率が高いことがわかりました(図2)。100mではなく,200m以下とそれ以上とで比較すると,明確な傾向がなくなってしまいましたので,100m以下の低標高域でキビタキが顕著に分布を拡大していると言えそうです。
同様に地域的な差も見てみました。北海道東北,関東中部,近畿中四国,九州沖縄に分けて比較すると,南ほど,今回新たにキビタキが記録されたコースの割合が高かったのです(図2)。低地ほど,そして南ほど人の自然利用の歴史が長く,森林が単純化したり切り開かれたりして,豊かな生物多様性が大きく消失してしまっていると考えられています(Yamaura et al 2011)。しかし近年は雑木林が利用されなくなって木々が生長したり,街路樹や公園の木も大きくなって,林は復活傾向にあります。こうした変化により,キビタキの分布がこれらの地域でより広がっているのかもしれません。
調査にご協力を
全国鳥類繁殖分布調査の結果から,夏鳥が復活している可能性が見えてきました。これから調査が進んでいくにつれて,さらに多くのことがわかってくると思います。そのためにはできるだけ多くのコースで調査が行われる必要があります。現在調査を予定している約2300コースのうち,調査担当者が決まっているコースは約半分。都市部の調査コースは決まっているところが多いのですが,それ以外のところでは決まっていないコースが多くあります。みんなの力で日本の鳥の今を明らかにしませんか? 調査にぜひ参加してください。
調査の参加登録はこちらから。
https://db3.bird-research.jp/~birdatlas/volunteer.html
全国鳥類繁殖分布調査 http://www.bird-atlas.jp/
主催団体:バードリサーチ,日本野鳥の会,日本自然保護協会,日本鳥類標識協会,山階鳥類研究所,環境省 生物多様性センター