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7000kmをひとっ飛び? ~オーストラリアで越冬するミユビシギの渡りルート~

バードリサーチニュース2016年6月: 3 【論文紹介】
著者:奴賀俊光

 

図1. ミユビシギ

図1. ミユビシギ

 某有名映像制作会社で最近アニメ化されたシギのモデルと思われるミユビシギ(図1)。世界中に広く分布し、南半球から北極圏までの長距離の渡りをしますが、その渡りルートや生態はこれまでよくわかっていませんでした。ヨーロッパでは研究者が中心となっている、Sanderling Project(ミユビシギの英名がSanderling)というものがあり、渡りルート等の調査が行われています。
 日本にも、ミユビシギは旅鳥または冬鳥として飛来し、秋~春まで砂浜や砂質干潟で観察することができます。渡りの時期にはオーストラリアの越冬地で標識されたミユビシギが日本を通過しています。
 今回紹介するのは、日本も含まれる東アジア・オーストラリア地域の渡りルート(East Asian-Australasian Flyway、略してEAAF)でのミユビシギの渡りルートに関する研究論文です。オーストラリアのDeakin大学のLisovskiさんたちは、南オーストラリア州で越冬期のミユビシギにジオロケーターを装着し、繁殖地、渡りルート、重要な中継地を調べました。

 2012年の3月に南オーストラリア州のCanunde国立公園で、合計44羽のミユビシギにジオロケーターを装着しました。再び越冬地に戻ってきたミユビシギ14羽からジオロケーターを回収し、そのうち13羽から、越冬地を出発して再び越冬地に戻るまでの一連の渡りルートのデータを得ることができました。データを解析した結果、EAAFのミユビシギの繁殖地、渡りルート、渡りの中継地が明らかになってきました。

 

繁殖地

 繁殖地が最も集中していたのはNew Siberian Islands(ノヴォシビルスク諸島)で、その周辺の大陸沿岸部でも繁殖していると推定されました(図2)。

図2. ジオロケーターのデータ解析からわかったミユビシギの繁殖地、重要な中継地、渡りルート。Lisovski et al. (2016)を参考に作図。

 

渡りルートと中継地

 南オーストラリア州の越冬地を4/26~5/10の間に出発したミユビシギは、赤道を越え、最初の重要な中継地であるベトナムや中国南部の海南島周辺まで最大約7000kmを一気に渡りました。論文中では最高時速は80kmと見積もられていて、7000kmをおよそ5~7日間かけて渡っていました。大型のオオソリハシシギ(全長41cm)が数千~1万kmを一気に渡るという報告がありますが、小型のミユビシギ(全長20cm)でもオーストラリア大陸を縦断して7000kmを一気に渡るというのはすごい!その後、台湾や中国の東海岸、黄海沿岸の中継地を経て、サハリン島の北端を最後の中継地として、繁殖地へ向かいました(図2)。各個体は、越冬地を出発してから3~5か所の中継地を利用し、繁殖地への到着は6/5~16。越冬地を出発してから平均40日(最短38日、最長48日)で繁殖地に到着しました。
 繁殖地での滞在は32日~66日でした。繁殖を終えると、全ての個体は7/13~8/22の間に繁殖地を離れ、ほとんどの個体は最初の中継地としてサハリン島北部のオホーツク海沿岸を利用しました。その後は、中国、台湾の沿岸沿いに数カ所で滞在し、さらに熱帯や亜熱帯(フィリピン、インドネシア、マレーシア)で少なくとも1カ所の中継地を利用し、南下しました。半数以上の個体は、北上時とは異なり、オーストラリア大陸の西岸から回り込むように越冬地へ向かい、オーストラリア大陸で少なくとも1カ所は中継地を利用しました。少し遠回りになるせいか、良い休息地がないのかはわかりませんが、東海岸はルートではないようです。各個体は繁殖地を出発してから6~7か所の中継地を利用しており、南オーストラリア州の越冬地へ戻ったのは9/20~11/12でした。繁殖地を出発してから平均78日(最短57日、最長108日)で越冬地に戻りました。他の渡りをするシギ類と同様、北上時よりゆっくり南下しています。北上時は北極圏の短い夏の間に繁殖できるように急いでいるのでしょう。 
 個体ごとの詳細な渡りルートは以下からダウンロードできます。
http://www.publish.csiro.au/?paper=MU15042
(ページ右上の方にあるSupplementary Material をダウンロード)

 

目視観察結果との比較

  ジオロケーターのデータはわずか13個体分で、しかも1回だけの渡りのデータなので、今回の結果がミユビシギの渡りルートの全てというわけではありません。この論文では、ジオロケーターのデータ以外にも標識個体の確認例や個体数調査などの目視観察のデータも含めて議論しています。ジオロケーターのデータ解析では、日本を通過したミユビシギは1個体だけでしたが、目視観察の結果では日本沿岸での記録が多く、日本沿岸もミユビシギの重要な渡りの中継地であると述べています。日本のカウント調査のがんばり?がこの論文では反映されているのかもしれません。逆に、ジオロケーターで重要な場所と判断された中国の東海岸や南海岸は、目視観察の結果では重要な中継地として評価されていません。これは目視観察のデータが不足しているためだそうです。
 今後、目視観察が各地で行われ、ジオロケーターによる調査も増えれば、ミユビシギの渡りルートの全貌がより明らかになってくると思います。

 

 この論文には、その他に、雌が遅くまでヒナの世話をしている分、雄より繁殖地を離れるのが遅くなるという話や、Supplementary Materialには ジオロケーターデータの解析手法(解析ソフト「R」のコード)なども掲載されています。全文を無料で閲覧することはできないのですが、個体ごとの渡りルートの図を見るだけでも、ミユビシギがいつ頃、どの辺を通過しているのかがわかり、おもしろいと思います。

  

紹介論文
Lisovski, S., Gosbell, K., Christie, M., Hoye, B. J., Klaassen, M., Stewart, I. D., Taysom, A. J., and Minton, C. 2016. Movement patterns of Sanderling (Calidris alba) in the East Asian–Australasian Flyway and a comparison of methods for identification of crucial areas for conservation. EMU 116, 168–177.