全国鳥類繁殖分布調査から5年がたちました
2016年から2021年にかけて、3回目の全国鳥類繁殖分布調査を実施しました。この調査では、1970年代、1990年代と比べてアオバトやキビタキなど森林性の鳥が増加していたり、小型魚食性のコアジサシやコサギなどが減少していたり、ジョウビタキやカタグロトビのように、3回目の調査で初めて繁殖鳥として記録された鳥がいたりと、日本の鳥の様々な変化がわかりました(植田・植村 2021)。
その調査が終わって5年が経ちました。そこで、バードリサーチが提供している野鳥記録用データベース「バードノート」に記録していただいたデータなどを解析して、ここ5年での変化があった鳥を2つの記事に分けて紹介します。2022年から2026年にかけての、毎年5月11日から6月30日の記録を繁殖期の記録として解析に使用しました。今回はジョウビタキ編です。
繁殖分布の拡大が続くジョウビタキ
ジョウビタキは2010年代になって、中国山地や岐阜県、長野県、北海道などで繁殖するようになりました。バードノートに届いた記録を見てみると、前回の全国鳥類繁殖分布調査から5年の間にもさらに分布が広がっているようです(図1)。山口県、奈良県や、東北地方で、これまで繁殖期の記録がなかった場所での記録がありました。現地調査とアンケート調査の記録が含まれる全国鳥類繁殖分布調査と比べると、バードノートの記録の方が調査努力量は低いと考えられますが、それでもジョウビタキの分布が拡大している様子をとらえることができました。ただし、2022年以降では、対象とした季節に北海道からの記録は来ていませんでした。もし観察記録をお持ちの方がいましたら、ぜひバードノートにご登録ください。
バードノートには、詳細情報を入力する任意の項目があります。2022年から2026年の記録は、詳細情報の「確認方法」に「さえずり」が入力されている、「観察コード」が全国鳥類繁殖分布調査の繁殖分布調査の観察コード・繁殖ランクでCランク以上に当たる、「メモ」にさえずりを聞いたなどの記録があるもののいずれかに当たる記録を抽出して解析をしました。
面的に広がっていることがわかったジョウビタキの繁殖分布ですが、標高の変化はどうでしょうか。それをみてみたのが図2です。繁殖ランクがAとB(図1の赤と青)のもののみを解析に使用しました。前回の調査でも記録が集中していた本州中部にあたる、緯度36度付近を見てみると、記録された標高に大きな変化があるわけではなさそうです。もともと1000mを超える場所で繁殖記録の多かったジョウビタキが、繁殖個体が増えるにつれて低標高側に広がっていたりしないかと思いましたが、今のところそうした傾向はなさそうです。
図2の2020年代の記録を一見すると、緯度が低い(図の左側)場所ほど記録地点の標高が低く、緯度が高い(図の右側)ほど標高が高い関係があるようにも見えます。本州では中国山地の標高は低く、中部以北で標高が高い場所が多くなりますので、そもそもの本州の地形の南低北高が影響しているのかもしれないのと、東北ではまだ記録が少ないせいでこう見えている可能性があります。西や北の方ではまだ記録が少ないですので、これからデータが溜まったらまた見てみようと思います。
富士山付近でも繁殖が始まるかも?
2020年代の記録では、富士山のふもとでも繁殖期の記録がありました(図3)。富士五湖のひとつ、西湖の近くからの記録です。この辺りからは南方向に富士山やその山麓、箱根や丹沢山地など、1000m級の山々があります。今のところ、富士山やその南の方ではジョウビタキの繁殖はまだ記録されていませんが、ジョウビタキが好んで営巣する別荘地も点在する場所ですので、近い将来こういった場所でも繁殖が確認されるかもしれません。
ジョウビタキはカッコウに托卵される!?
最後は余談ですが、実はジョウビタキにはカッコウが托卵することがあるそうです。カッコウの托卵相手といえばオオヨシキリやモズなどが知られていますが、中国大陸ではジョウビタキにも托卵するそうです。中国北東部での2023年の研究では、ジョウビタキ490巣のうち15.3%にあたる75巣がカッコウに托卵されていたとのこと。カッコウは警戒心が強く、人家に近いところよりも、人間の行動圏からは離れた場所で托卵することが多いようです。人家や人工物で繁殖するジョウビタキはカッコウによる托卵率が相対的に低く、人家から離れた場所にある土の崖にある窪みや樹洞、積まれた薪の隙間などで繁殖するものほどカッコウに托卵されやすいという結果が報告されています(Zhang et al., 2023)。今のところ国内で見つかっているジョウビタキの繁殖は、多くが山の別荘地などにある家の隙間などです。まだ国内ではカッコウによる托卵は発見されていませんが、今後見つかるかもしれません。
ジョウビタキの繁殖分布の拡大は今後もおっていければと思います。もし観察されましたら記録をお寄せください。
参考文献
植田睦之, 植村慎吾, 葉山政治, 荒哲平, 高川晋一, 川路則友, 梶田学, 仲村昇, 田畑早紀, & 内山優奈. (2021). 全国鳥類繁殖分布調査で収集された20 kmメッシュの鳥類の繁殖分布のデータ. Bird Research, 17, R5–R9. https://doi.org/10.11211/birdresearch.17.R5
Zhang, J., Santema, P., Li, J., Deng, W., & Kempenaers, B. (2023). Brood parasitism risk drives birds to breed near humans. Current Biology, 33(6), 1125–1129.e3. https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.01.047


