バードウォッチャーのあいだでは多くの人の観察経験から、たぶんこうではないかなと言われていることがあります。そうした説のうち、今回は冬鳥に関する2つをバードリサーチが提供している野鳥観察データベースのバードノートの記録を使って検証してみました。越冬期には全国をカバーする定量的(ラインセンサスのように一定区間の個体数を数える調査)な野鳥調査がなく、全国越冬分布調査はアンケート形式なので個体数の多少までは分かりません。そこで、皆さんの観察記録が蓄積されているバードノートのデータは貴重な手がかりになります。
キレンジャクは北、ヒレンジャクは南に多い
丸っこい体に黒いマスクとたなびく冠羽。キレンジャクとヒレンジャクは冬の終わりから春先にかけて、群れを作って木の実がなる樹木に集まっているようすが見られます。両種は姿がよく似ていますが、キレンジャクはユーラシア大陸から北米にかけての広い範囲に分布していて、ヒレンジャクは英名のJapanese Waxwingが表すように東アジアだけに生息しています(図1)。
図2はバードノートの記録件数です。バードノートはスマートフォンで使えるようになったことで2019/20年の冬から記録数が増えたので、この年から2025/26年までの7年間を対象にして分析を行いました。年度は10~4月で集計しています。バードノートに記録される毎年の野鳥観察の総数が異なるので毎年の変化の比較は大まかなものにはなりますが、飛来数の多い年と少ない年があり、それは両種で一致しているようです。記録件数はヒレンジャクのほうが多いこともわかります。
さて、この二種は全国で見られるものの、キレンジャクは北に多く、ヒレンジャクは南に多いのではないかと言われていました。それを検証するため、ヒレンジャクとキレンジャクが記録された件数と個体数を地域ごとにまとめました(図3)。図2のグラフにまとめたデータを年度にかかわらずひとまとめにして、緯度で地域を分けました。
同じ群れを何度も記録しているケースを除外するため、何度も観察した記録を除外するため、同年・同一地点で複数回記録がある場合は1件とカウントし、そのときの個体数は最大値を使用しています。個体数記録がない場合は1羽として集計しました。このグラフから、緯度が高い北の地方ほどキレンジャクの記録件数と個体数が多く、南へ行くとヒレンジャクが多くなることがわかりました。これはキレンジャクは北に、ヒレンジャクは南に多いという説を裏付ける結果になりました。
ツグミは山の木の実を食べ尽くしてから低地に降りてくる
ツグミは冬鳥の中でも数が多い種で、森林から草地まで多様な環境を利用する野鳥です。木の実を好んで食べるので、秋には木の実が多い山地に飛来して、木の実が少なくなると低地に降りてくると言われています。
図4は、各月にツグミが記録された標高を表しています。ツグミ(青線)は秋の飛来直後には高い標高で記録されますが、しだいに標高が低くなりました。これはバードノートに記録されている観察地点全体が低くなったからではなく、ツグミ以外の野鳥の記録標高(橙線)は異なる傾向になっています。したがって、秋に高い場所にいて、季節が進むにつれて低い場所で見られるのは、実際にツグミがそのように移動しているためだと考えられます。標高の高い記録地点が木の実がある場所かまでは分かりませんが、ツグミが飛来当初に高い場所で記録されるという結果は「山の木の実」説を支持しているようです。
それから、「ツグミを見ることが少ない年、ツグミはずっと山にいて降りてきていない」と言われることもあります。図4はすべての観察記録を使いましたが、これは「ツグミだけ」「スズメだけ」のような記録も含むため、バードノートで「その場所で見た種すべてを記録した」というマークが付いている観察だけを使って、年別のツグミの記録率(ツグミを含む記録÷全記録)を調べました(図5)。
すると2024年度の冬は、ツグミの記録率がとても低いことがわかりました。私も覚えていますが、この年はいつになってもツグミが姿を表さず、3月になってようやく少し見られるようになりました。それでは2024年度は季節が進んでもツグミは山に留まっていたのかというと、バードノートの記録では、この年はどこでも、どの時期も、ツグミは少ないという結果でした。山に残っていたから見かけなかったのではなく、全体的に数が少なかったのではないかと思います。
今回はバードノートの記録を使った分析結果をご紹介しました。調査として集められた野鳥の記録だけでなく、普段のバードウォッチングの膨大な観察記録の蓄積からも、いろいろな知識が見つかります。多くの皆さんにバードノートを愛用していただけるとありがたいです。




