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研究誌新着論文:スズメの誘致に効果的な巣箱

バードリサーチニュース 2022年1月: 2 【研究誌】
著者:植田睦之

全国鳥類繁殖分布調査の結果の中でスズメの減少が一番注目をあつめました。新聞でもたくさん取り上げられたので,見た方も多いのではないでしょうか? スズメは数の多い身近な鳥だっただけに注目されたのだと思いますが,この数の多い鳥が減少することで,生態系に大きな影響がでることが心配です。最近,増加してきたオオタカが再度減少傾向にあることがわかってきていますが,これなどもスズメなどの減少が影響している可能性があり,上位捕食者への影響が出る可能性があります。また,人間にとっては,農業への影響が考えられます。無農薬・減農薬の必要性が言われていますが,それを進めるにあたってはスズメなどが雑草や害虫を食べてくれる生物的防除が重要になります。その機能が低下する可能性があるからです。その影響を減らすための対策としては,スズメを誘引することで生物的防除機能を高められるかもしれません。そんな方策の 1つとしてスズメに適した巣箱を検討したのがこの論文です。


佐藤晴香・高島 鼓・三上 修 (2021) ゴルフ場における害虫駆除者として,スズメを誘致するために効果的な巣箱の入口穴径と設置高さ.Bird Research 17: A45-A52

論文の閲覧:http://doi.org/10.11211/birdresearch.17.A45

 

巣箱を利用するスズメ(三木敏史)

 佐藤さんたちが,分析した結果,スズメは30.82mmの穴径の巣箱を好むことがわかりました。そして,その穴径は,繁殖成功率の高い穴径とほぼ同じだということもわかりました。また,また架設された範囲内では巣箱の高さは,スズメの巣箱使用に影響を与えていなかったことから,地上からの高さが約140 cmから約370cmのあいだであれば巣箱を架ける高さは考慮する必要がないこともわかり,こうした条件にあう巣箱を設置することでスズメを効率的に誘引できることが期待できます。

 なお,今回の解析に使った巣箱のデータは故峯岸典夫さんが集めた巣箱データに基づいています。峯岸さんはBird Research誌に,巣箱のデータでいくつもの論文を書き,その元情報のデータ公開もされています(峯岸 2011)。コロナ禍で野外調査がままならぬ中,こうしたデータで研究をすすめた著者の機転にも感心しましたし,今回こんな形でまとまって,天国の峯岸さんも喜んでいるんじゃないかと思います。

 

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