バードリサーチニュース

鳥の巣は誰のもの

バードリサーチニュース 2026年9月: 1 【野鳥の不思議】
著者:那須義次・植村慎吾

今年の調査研究支援プロジェクトでバードリサーチからの調査研究プランとしてカワウの巣の昆虫調査を実施しています。皆さまからのご支援をもとに、カワウの巣がどのような昆虫の発生源となっているかを調べる調査を進めています。対象が鳥ではない調査なので、皆さんにもその面白さを知っていただきたいと思い、このたび鳥の巣に生息する昆虫研究の先駆者である、大阪公立大学客員研究員の那須義次さんに、鳥の巣の昆虫調査についてご自身の研究成果を交えながら紹介していただきました。(植村)

鳥の巣は誰のもの?

 鳥はヒナを育てるために枝や葉などを集めたり、樹木に穴を開けたりして様々な巣を造ります。その巣というのはその場に今までなかったもので、新たな環境が創出されたことになります。このような鳥の巣には多くの生物が生息し、活用していることがわかってきました。このように鳥は巣を造ることにより環境を改変するため、生態系エンジニアと呼ばれ、他の生物に新たなニッチを創出していることになります。そう、鳥の巣はもちろん巣を造った親鳥やヒナのもの、鳥自身のものですが、実際はみんなのものなのです。

 筆者らは我が国で研究が遅れていた鳥の巣内に生息する昆虫、とくに鱗翅類(チョウ目)昆虫を中心に調査してきたので、その成果を紹介したいと思います。

1.鱗翅類はどのように鳥の巣を利用しているのか

図1. マエモンクロヒロズコガ

 日本において現在まで、15科23種の鳥の巣を我々が調査し、9科38種の鱗翅類の生息を確認しました。市街地のスズメ、キジバトやツバメなどの巣にはケラチン食性の強いイガとコイガといったヒロズコガ科と穀類食のカシノシマメイガとコメノシマメイガといったメイガ科が主に発生します。ヒロズコガ科は巣内のヒナの羽鞘屑や羽毛(ケラチンからなる)、ヒナの糞などを、メイガ科はヒナの糞に混じっている穀類の未消化物などを摂食しています。これらは衣類や食品を食べることも知られています。

図2. フタモンヒロズコガ

 里山と森林のシジュウカラ、ブッポウソウ、フクロウ、カワウなどの巣を調査したところ、巣内にケラチンと枯草があれば、ケラチン食性のマエモンクロヒロズコガ(図1)、フタモンヒロズコガ(図2)といったヒロズコガ科とマルモンヤマメイガといったメイガ科、マルハキバガ科やミツボシキバガ科などの枯葉食性の蛾が発生します。一方、昆虫食性の鳥で巣内に枯れ草がない(巣材を集めない)アオバズクやブッポウソウの巣ではヒロズコガ科の中でもキチン食性の強いウスグロイガとクロスジイガが発生します。これら幼虫はヒナの食べ残しや糞(キチン質が多い)を摂食しています。

 リュウキュウアカショウビンは西表島と石垣島では樹上に造られたタカサゴシロアリの巣に穴を開けて営巣によく利用し(図3)、宮古島ではシロアリが分布していないので枯木に穴を開けて巣にします(図4)。これらの島で巣を調査した結果、シロアリの巣と枯木の巣の間では発生する蛾の種類に違いが見られました。シロアリは樹木の植物質と自身の唾液を混ぜて巣を造るため、窒素成分は樹木よりも高いと考えられ、この違いが発生する鱗翅類に影響しているのかもしれません。一方、アカショウビンが穴を開けただけで、営巣していない巣では昆虫相は非常に貧弱でした。アカショウビンが営巣することにより、ヒナの糞や食べ残しが蓄積されたり、枯木の腐食が進んだりするため、鱗翅類の餌が巣内に豊富になるのでしょう。このようにアカショウビンの営巣が亜熱帯域の生物多様性維持に貢献していることが明らかになりました。

図3. タカサゴシロアリのアカショウビンの巣

図4. 枯木に営巣したアカショウビンの巣

 最近、シジュウカラの巣箱を3年間調査した結果から、巣立ちあるいは捕食、放棄が起きるまでの巣の利用期間が長い巣ほどケラチン食性や腐食性の昆虫が発生しやすく、鳥の繁殖活動が昆虫の生息場所を造り出していること、鳥の営巣中から昆虫は巣に侵入して巣を積極的に利用していることも判明しました。

 鳥の巣の鱗翅類相の違いは、樹洞の巣(巣箱を含む)あるいは上面が開けたお椀形といった巣の形状の違いでなく、巣が市街地にあるかないか、そして鳥の食性と鱗翅類が利用できる餌資源(巣材や堆積物)の違いに関係していることを示しています。

 我が国では鳥の巣の生物調査は始まったばかりで、今までの灯火による成虫採集や寄主植物の調査では発見できなかった種類の昆虫も鳥の巣から多数見つかっています。鳥の巣は昆虫調査の新たな対象として重要なのです。

2.生態系エンジニアとしての鳥と巣内共生者の関係

コノハズク(撮影 三木敏史)

 フクロウ類の巣内の鱗翅類は発生量が多く、巣内共生者として巣内堆積物の重要な分解者として働き、巣内清掃に重要な役割を果たしていると考えられます。すなわち、フクロウ類はヒロズコガ科に豊富な餌と住処を提供し、鱗翅類は巣内を清掃し毎年の巣利用を助けていると推測されます。このような両者の関係は相利的と言えるかもしれません。他の鳥の巣でも鱗翅類は発生量に関わらず巣内清掃に一定の役割を果たしていると思われます。

 コウノトリの巣は大量の枯れ枝と土からなる特異なものですが、ヒナを育てることによって、コウノトリの羽毛、ヒナの羽鞘屑、食べ残し、ペリットや糞といった動物質も豊富に集積しています(図5)。この巣を利用するため、能動的に巣に飛来するコガネムシ科のアカマダラハナムグリ(図6)、シラホシハナムグリなどの腐肉食者(両種の幼虫は肉食性が強い)と、草の根土ごと受動的に運ばれてきたナメクジ類、ミミズ類、ワラジムシやヒゲジロハサミムシなどの腐食者や捕食者が巣内に共生し、腐食連鎖を形成していることが判明しました。ちなみに、アカマダラハナムグリは絶滅が心配されている甲虫ですが、コウノトリの1巣になんと300個体は生息することが明らかになりました。これは、コウノトリの復活が希少種の昆虫の保全につながることを示す重要な研究となりました。

図5. コウノトリの電柱の巣

図6. アカマダラハナムグリ成虫

 

3.巣内共生者の適応

 鳥の巣内で羽化したヒロズコガ科の成虫は飛翔性が悪く、刺激を与えるとすぐに巣材内に潜り込んで隠れます。このような行動は巣の持ち主からの捕食回避のため進化したのかもしれません。事実、サシバの幼鳥が巣内でコガネムシ科の幼虫(おそらくアカマダラハナムグリ)を捕食するのが観察されています。アカマダラハナムグリの幼虫は夜間活動して採餌したり、巣の底部に潜むといった習性をもちます。このような習性は巣の持ち主からの捕食回避の意味を持つことが指摘されています。鳥の巣に生息するには共生者も必死で鳥の捕食から逃れながら、生きているのかもしれません。

図7. フタモンヒロズコガ雌体内の無数の幼虫-

 また、東南アジア等に分布するヒロズコガ科のMonopis属や南米アンデス地方のTinea属の蛾はしばしば鳥の巣で発見され、その内複数の種は卵でなく幼虫を産出することが知られています。我が国でも鳥の巣から見つかるフタモンヒロズコガが幼虫産出性であることがわかりました(図7)。幼虫産出性は鱗翅類の中では非常に珍しい習性であり、幼虫産出性と鳥の巣内生息との間には何らかの関係があることが示唆されますが、詳細は不明です。

参考文献

濱尾章二・那須義次(2022)鳥の巣と昆虫の関係:鳥の繁殖活動が昆虫の生息場所を作り出す.日本鳥学会誌71: 13–20.
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上記以外の文献は,那須義次(2012)に掲載されている.