野鳥の不思議解明最前線 #115  植田 睦之
© Japan Bird Research Association 2015


日本に渡って来たセンダイムシクイ。彼らも海を越えて東南アジアまで一気に渡る? 撮影:三木敏史





春は陸路で秋は海路
~ ジオロケーターでわかったズグロアメリカムシクイの渡り ~


 4月に入り,花粉は気にならなくなりましたが,代りに肩を患ってしまいました。年齢的に四十肩なのか五十肩なのかは微妙なのですけど・・・。今のところ,手を上まで上げなければ大丈夫なのですが,重いものを持つとシクシク痛みます。荷物は軽くを心がけています。
 軽い荷物を心がけなければならないのは,渡り鳥の調査も一緒。渡り鳥に発信機を付けて追跡する時には,経験的に体重の4%以下にしなければならないと言われています。そのため,小型化されたとはいえ,まだまだ重い衛星用発信機では中大型の鳥しか渡り追跡ができませんでした。それが,ジオロケーターという機器がでてきてからは小鳥の追跡もできるようになってきました。
 この連載の46号でもムラサキツバメ Progne subis とモリツグミ Hylocichla mustelina の渡り経路の論文(Stutchbury et al. 2009)を紹介して,1.2gのロガーなんてすごいね,と話していたのですが,今はなんと,装着具を含めても0.5gなんて小さなものも開発されているんですね。
 これを使った研究から,体重12gしかないズグロアメリカムシクイ Setophaga striata が大西洋を3日間も飛び続けて横切っていることが明らかになったのです。

 シギの仲間では,ホウロクシギが7,000km(Driscoll & Ueta 2002),オオソリハシシギが1万km(Gill et al. 2009)ノンストップで渡っていることが知られています。小鳥はそれらの鳥たちと比べると,飛翔能力が劣ると考えられていますが,ズグロアメリカムシクイでもレーダによる飛行方向などから,大西洋を横切っている可能性が示唆されてきました(Nisbet et al. 1995)。今回のアメリカのDeLucaさんたちによるジオロケータを使った研究で,それが確認されたのです。
 ズグロアメリカムシクイは北米で繁殖し,南米で越冬する渡り鳥です。DeLucaさんたちは,アメリカとカナダの東海岸の繁殖地で2013年に37羽を捕獲してジオロケータを装着し,翌年5羽からジオロケーターを回収することに成功しました。その結果,越冬地から北上する春の渡りは,陸沿いを北上していたのに対し,秋の渡りはショートカットするように大西洋を横切って,49-73時間ノンストップで2,270-2,770kmを飛んでいることが明らかになりました。脂肪の蓄積量から推測すると,ズグロアメリカムシクイには3,800km,81時間補給なしに飛び続けるポテンシャルがあると推測されていたので,今回得られた結果はその推測にあてはまっています。
 でも,なぜ春は沿岸を,そして秋は海上をノンストップで渡るのでしょう? 春はなわばりの確保のために,速く渡る方が有利です。しかしその逆になっているということは,何か環境の要因がありそうです。1つ考えられるのは春の食物の少なさです。春の高緯度の繁殖地はまだ雪が残っていたり,また,急に寒くなって食物がとりにくくなることがあります。そういう状況下では,ノンストップフライトで消耗した状態で繁殖地につくのは危険といえそうです。また,気象条件も考えられます。オオソリハシシギ(Gill et al. 2009)の渡りも秋はノンストップ,春は沿岸で,秋は季節風を利用できるためだと考えられています。同じことがズグロアメリカムシクイでも言えるのかもしれませんね。




紹介した論文
DeLuca WV, Woodworth BK, Rimmer CC, Marra PP, Taylor PD, McFarland KP, Mackenzie SA & Norris DR (2015) Transoceanic migration by a 12g songbird. Biology Letters 11: 20141045.