野鳥の不思議解明最前線 #114  植田 睦之
© Japan Bird Research Association 2015


巣立って木陰に隠れるオナガの雛。彼も朝早くに巣立った? 撮影:守屋年史





早朝の巣立ちは生存のため?
~ 早い時刻に巣立つほど生残率の上がるシジュウカラ ~


 4月になりました。鳥の繁殖期になり,調査で早起きしなければならない季節です。ぼくは早起きは嫌いじゃないですが,鳥たちが早朝に一番活発に鳴くので,仕方なく早起きするという人も多いと思います。特に若い学生さんたちは。でもなぜ,鳥は早起きなんでしょう。朝早い時間帯は,風も弱く,静かで,遠くまで鳴き声を届かせるのに有利だと言われていますし,早くから鳴くから鳴けるのは優秀な個体であることを雌やライバル雄に伝えるシグナルではないかと言われています(Murphy et al. 2008)。
 このようにさえずり時刻は早いのですが,鳥が巣立つ時刻も早いことが知られています。それはなぜなのでしょうか? シジュウカラの研究から,早い時刻に巣立った方が翌年までの生き残れる可能性が高まるようだということが,見えてきました。

 この研究をしたのは,オランダのRadersmaさんたちのチームです。彼らは179羽のシジュウカラの巣立ちビナに足環をつけ,巣立ち日,体重や翼長,ふ化順,兄弟の性比とともに巣立ち時刻と,翌年まで生き残る確率とを比較しました。すると,体重の重い個体がやや生き残ることが多かったのですが,その傾向は有意ではなく,繁殖時期,ふ化の順番などにも,生残への有意な影響はありませんでした。そして,巣立ち時刻のみが有意に生残に影響しており,より早い時刻に巣立つことが翌年までの生残に重要だということがわかりました。
 では,なぜ,早い時間に巣立つことが生存のために重要なのでしょう? シジュウカラやヒガラでは巣立ち後数日の死亡率が高く,その後はあまり死ななくなることが知られています(Naef-Daenzer et al. 2001)。つまり巣立ち後数日をなんとか生き延びることが生残のためにかなり重要だといえます。Randersmaさんたちは,早朝に巣立つことで,暗くなるまでに,周囲の状況をよく把握することができ,安全な場所でねぐらをとることができるので,早朝に巣立つことが重要なのではないかと考えています。
 でも,東京の雑木林では,シジュウカラが巣立ちはじめるとツミがシジュウカラを中心に狩りをするようになります(植田 1993)。巣立ったばかりでまだうまく飛べないシジュウカラはツミにとっては獲りやすい獲物です。巣立ち直後のあまりうまく飛べない巣立ちビナにとって,早朝に巣立って丸1日危険にさらされるよりは,遅い時間に巣立った方が有利なように思います。東京の雑木林には夜の捕食者もたぶんいませんしね。その場所にどんな捕食者がいるかどうかで,巣立ち時刻と生残との関係は変わるのかもしれません。




紹介した論文
Radersma R, Komdeur J & Tinbergen JM (2015) Early morning fledging improves recruitment in Great Tits Parus major. Ibis 157: 351-355.