野鳥の不思議解明最前線 #113  植田 睦之
© Japan Bird Research Association 2015


巣をつくるサンショウクイ。留鳥でこんな巣をつくる種はいないので,他種の真似はしない? 撮影:内田 博





鳥の営巣場所選びもコピペ?
~ 状況によって真似する相手を変えるシロエリヒタキ ~


 「コピペしてつくった」と言うと悪いことのように思われる風潮になってしまいました。でも,普通にしますよねぇ。
 明日から北海道に調査に行くのですけど,帰ったらすぐにその結果をまとめた報告書を出さねばなりません。そんな時,効率的に報告書を書くためには,やっぱりコピペです。去年からの継続調査なので,目的や調査方法なんて,去年の報告書からコピペして日付を変えれば,完成,あとは結果と考察です。これをわざわざ一から書く人なんて…。こだわりのアーティストか,暇な人だけですよね。そんな時間があったら,「へぇ~」って言われるような結果を出せるように使います。それがぼくの生き残る道。
 まぁ,ぼくはそれほど忙しいわけではありませんが,忙しく,時間を節約せねばならない鳥がいます。夏鳥たちです。渡ってくる分だけ,繁殖時期が留鳥よりも遅くなるので,渡来したら,できるだけはやく繁殖をはじめないと繁殖成績が下がってしまうからです。そんな彼らは営巣場所選びに時間がかけられません。そこで,彼らは,ぼくらのように「コピー」することで営巣場所を決めていて,さらに時期によってコピーする相手を変えていることがスウェーデンのシロエリヒタキ Ficedula albicollis による研究でわかってきました。

 シロエリヒタキは巣箱に営巣する夏鳥です。Jaakkonenさんたちは,巣箱の入り口に○マークをつけた巣箱と△マークをつけた巣箱を並べて設置し,そのどちらを選ぶか調べました。そして周囲で繁殖している鳥の選択を真似ているかどうかを解析しました。
 すると,早い時期に繁殖するシロエリヒタキは周囲で繁殖している留鳥のシジュウカラなどのカラ類の巣箱と同じマークの巣箱で営巣する傾向があることがわかりました。この時期は,まだシロエリヒタキは,渡来直後でほとんど繁殖しておらず,シロエリヒタキの他個体の営巣場所を真似したくても,真似できない時期のため,カラ類の営巣場所を真似たのだと思われます。
 それに対して,シロエリヒタキが周囲でたくさん繁殖していて,カラ類の巣が少ない遅い時期に繁殖したシロエリヒタキは,シロエリヒタキの巣をと同じ場所で営巣する傾向がありました。おそらく種や生態の違うカラ類よりは,同種の真似をした方が利益が高いため,他のシロエリヒタキが利用した営巣場所を真似したのだと考えられます。でも真似することで,良い場所を選べるのなら良いのですが,「ダメな奴」の真似をしてしまって良くない場所で繁殖してしまうことになる危険もありそうです。その時点まで生き残っていた巣なので,良い選択をする確率が高いのかな? 真似をすることのメリット/デメリットについても,実験的に検証していく必要があるのかな,と感じました。




紹介した論文
Jaakkonen T, Kivelä SM, Meier CM & Forsman JT (2015) The use and relative importance of intraspecific and interspecific social information in a bird community. Behavioral Ecology 26: 55–64.