野鳥の不思議解明最前線 #112  植田 睦之
© Japan Bird Research Association 2015


飛行するオオタカ。この気の強そうな目からすると中年の個体? 撮影:小松周一





オオタカのおばさまは攻撃的?
~ 年齢や人生設計により変わるオオタカの攻撃性 ~


 最近,野外調査が続いています。雪の中の調査は疲れるので,もっと寝て,疲れを癒したいところなのですけど,年のせいか5時半には起きてしまいます。これって生物学的にはどういう仕組みなんですかね? ぼくに子供はいないので,もう悠々自適の年齢なのですが,普通なら,教育費等々一番お金が必要な時期なので「疲れていても,もっと働け」という身体の指令なんでしょうか? それとも「人生50年」とすると「もう晩年だから体力を温存する必要はない」という指令なんですかね。
 ぼくの場合は,こうした身体が求める行動?と適応度が,うまくリンクしていない感じですが,今回紹介するのは,オオタカの巣を防衛するための攻撃的行動の年齢や個体による変化が,個体やその時期の繁殖の可能性とうまくリンクしていそうだという研究です。雌のオオタカの攻撃性の変化を生涯をとおして記録したところ,若くして繁殖するかどうかという人生設計や,年齢によって攻撃性が変化していることがわかったのです。

 この研究はデンマークで,MøllerさんとNielsenさんがなんと410羽ものオオタカの雌の生涯をとおした巣の防衛行動の強さや繁殖成績を記録し,解析したものです。オオタカには人が近づいても静かなままの個体から,警戒声をあげる個体,直接的に攻撃してくる個体などさまざまな個体がいるので,それらをもとに巣の防衛行動の強さをランク付けして,個体差,年齢による変化を調べています。
 まず,オオタカの生涯をとおした繁殖の成績をみてみると,若い頃は繁殖成績は良くないけれども,年と共に多くのヒナを巣立たせることができるようになっていき,6~8歳くらいをピークに,その後は再び低下していくことがわかりました。この変化と防衛行動の強さの変化は完全に対応していました。つまり,若いころはあまり激しく防衛しなかったのが,激しく防衛するようになり,そして再びあまり防衛しなくなったのです。このことから,繁殖成績がよいと予測される時には,オオタカは防衛の努力を高めていると言えそうです。
 また,若くして繁殖を始める雌と,大人になってから繁殖する雌を比べると,大人になってから繁殖をはじめる雌の方が激しく防衛する傾向にあることがわかりました。これは細く長い人生と太く短い人生の違いなのかもしれません。
 少しだけですが,雄についての情報もありました。防衛行動をよくする雌は,防衛行動をよくする雄と番う傾向にあったそうです。ただ,雄は巣のまわりにあまり滞在しない,狩に従事しているので,防衛行動の評価はちょっと難しそうです。では防衛以外の雄の行動はどうなのでしょうか?雌が一生懸命防衛すると,そのぶん雄も狩りの努力量をあげるとかあるのでしょうか? なかなか定量化は難しいような気もしますが,そのあたりも見てみると面白いなと思いました。






紹介した論文
Møller AP & Nielsen JT (2014) Parental defense of offspring and life histry of a long-lived raptor. Behavioral Ecology 25: 1505-0512.