野鳥の不思議解明最前線 #111  植田 睦之
© Japan Bird Research Association 2015


巣材を運ぶアオサギ。以前は北日本や日本海側でしか繁殖していなかったが,現在は全国各地で繁殖するようになった





普通種が減り,希少種が増えている?
~ ヨーロッパでの1980年からのモニタリング調査の結果から ~


 明けましておめでとうございます。皆さんは今年の目標を立てましたか? ぼくの今年の目標は,2020年の完成を目指して実施する全国鳥類繁殖分布調査の体制づくりをすることです。そこで,今年の最初の論文は,ヨーロッパで行なわれている繁殖鳥モニタリング「Pan-European Comon Bird Monitoring Scheme」の結果をまとめた論文をご紹介したいと思います。この研究では,個体数の多い普通種が顕著に減少しており,逆に希少種は増加傾向にあることが見えてきました。

 1980年からのデータをもとに鳥の個体数の変遷を見ると,ヨーロッパでは特に1980年代に鳥が急速に減少したことがわかりました。その後,減少率は小さくなり,2000年代以降は安定しているかやや持ち直す兆しも見えています。
 では,どんな鳥が減っているのでしょう? これまでの研究でイエスズメ Passer domesticusホシムクドリ Sturnus vulgaris などの普通種が減少していることが知られているので,各種鳥類の個体数の推定値をもとに,個体数の多い順に「個体数の多い種のグループ(普通種)」「やや個体数の多い種のグループ」「やや少ないグループ」「希少種」の4つに鳥をグループ分けして,それぞれのグループの増減の度合いを見てみました。すると,最も個体数の多い普通種は急激に個体数を減らしており,2番目に多い鳥のグループも普通種ほどではないものの減少していました。それに対して個体数のやや少ないグループは安定からやや増加傾向にあり,希少種は増加傾向にあることがわかりました。この個体数による区分以外に採食場所,生息環境,体の大きさが増減に影響しているかどうかも検討しましたが,やはり個体数区分が一番影響が大きいことがわかりました。
 希少種が増えた原因は,保全活動の成果や農薬等で減った鳥たちが使用制限などで,一度 減っていた個体数が復活した点が大きいと考えられます。それに対して普通種の減少は農業形態の変化で農地の鳥が減ったなど人間活動が変わったことが影響しているものと考えられます。

 では,日本ではどうなんでしょう。個体数が少なかったカワウやアオサギなど大型の魚食性の鳥が増加したことや,増えている猛禽類がいること,普通種のスズメの減少などはヨーロッパと同様に日本でも希少種の増加と普通種の減少を感じさせます。けれども森林性の普通種には増加しているものも多いようです。農耕地が国土面積の多くを占めているヨーロッパと森林が多くを占めている日本では,ちょっと状況が違うのかもしれませんね。
 そうしたことは,ぼくの今年の目標でもある「全国鳥類繁殖分布調査」で明らかにできるのでは,と思っています。現在皆さんにお手伝いいただきながら,調査地図の整備など行っているところです。ホームページも立ち上がっていますので,調査の準備や実際の調査への参加登録,よろしくお願いいたします。
http://www.bird-research.jp/1/bunpu/




紹介した論文
Inger R, Gregory R, Duffy JP, Stott I, VoříšekP & Gaston KJ (2015) Common European birds are declining rapidly while less abundant species' numbers are rising. Ecology Letters 18: 28–36.