バードリサーチニュース

今年の山の鳥のさえずりは早い?それとも遅い? さえずり聴き取り調査の結果から今年のさえずり時期を予想する

バードリサーチニュース2019年3月: 2 【活動報告】
著者:植田睦之

さえずるゴジュウカラ(内田博)

「ツピ ツピ ツピ ツピ  ツピ ツピ ツピ ツピ」
 そこここからヒガラの声。そしてキバシリのさえずりも聞こえます。徐々に気温も上がってきて,山でも春が感じられます。
 まもなくその他の鳥たちののさえずりも活発になってきます。今年の彼らのさえずりは早いのでしょうか? それとも遅いのでしょうか? 予想してみたいと思います。

ゴジュウカラは暖かい年は早くさえずる

図1 ヒガラとゴジュウカラのさえずり頻度の季節変化.折れ線は各年のさえずり頻度を示す。○はさえずり頻度と気温の関係の解析のための抽出した日のサンプルを示す。

 埼玉県奥秩父にある東京大学秩父演習林には,CyberForestプロジェクトのライブマイクが設置されています。バードリサーチでは,そのライブマイクの聞き取り調査を2011年から行なっています。4月から,3日に1度の頻度で,日の出10分前から1時間後まで,1分区切りで鳴いている鳥の種を記録し,各種鳥類のさえずり頻度を記録しています。

 その結果から,鳥たちのさえずりの活発になる時期がわかります。キビタキのような夏鳥は渡来後すぐに活発になっていき,その変化を掴みやすいので,2018年7月のニュースレターで,4月の気温がさえずりの活発になる時期に関係することを報告しました。しかし,留鳥については,さえずりが活発になる時期が調査開始より早いことや,夏鳥のような急激な変化が見られないことから,さえずりの活発な時期の把握が難しいため,これまで解析してきませんでした。今回,留鳥の中でもなんとか解析ができそうに見えたヒガラとゴジュウカラ(図1)について,さえずり時期と気象状況との関係をみてみたいと思います。調査地の秩父で早春にさえずる鳥には,それ以外にもコガラやヤマガラ,キバシリがいますが,これらの種は,よくさえずる日と,あまりさえずらない日のムラが大きく,さえずりの季節パターンを抽出しにくかったので,残念ながら対象にはできませんでした。

 聞き取りを始めた4月1日以降のさえずりは,ヒガラはだんだん頻度が高くなり,その後高いまま推移するというパターンを示し,ゴジュウカラは4月時点ですでに頻繁にさえずっておりその後さえずり頻度が低くなっていきました。そこで,ヒガラについては,さえずり頻度がピークに達した日(図1の赤い線では○をつけた日)を,ゴジュウカラについては,さえずり頻度が下がってきて,頻度20に達した日(同様に○をつけた日)を調べ,その日とその年の4月の平均気温,4月までの積算気温の関係について,調べました。
 その結果,ゴジュウカラは4月の気温で見ても,積算気温で見ても,暖かい年ほど早めにさえずりが終わるという明確な傾向が見られました(図2)。ゴジュウカラは暖かい年はさえずり活動が早くなると考えて良さそうです。それに対して,ヒガラでは明確な関係はありませんでした。

図2 ゴジュウカラとヒガラのさえずり時期と気候との関係。縦軸の時期は4月1日からの日数で示した。


 なぜヒガラでは傾向が見られなかったのでしょうか? ゴジュウカラはどの年も同じように,スッとさえずり頻度が落ちてきていましたが,ヒガラは,年によってはダラダラとさえずり頻度が上がり(赤や黒),また急激に上がる年(オレンジや青)もあり,年によりその変化は様々でした。さらに,さえずりは,その後ずっと高いまま推移しています。さえずりは多くの種ではつがい形成から産卵までは活発でその後不活発になります。しかしそうでない種もいてヒガラもその1つのようです。ヒガラは多くの森林で優占種になるような密度の高い種なので,さえずりはつがい形成の機能よりも,なわばり防衛の機能がより高く,繁殖期を通してさえずり続けるのかもしれません。そうだとすると,さえずり時期が繁殖時期を反映せず,まわりのライバル雄の密度や行動により決まっていて,それが原因で,さえずり頻度と気候が明確に表れないのでしょうか?

今年のさえずり時期は?

 気温との関係が明確だったゴジュウカラの結果をもちいて今年のさえずりが早そうかどうかを占ってみたいと思います。4月の平均気温は今はまだわかりませんが,積算気温なら現時点の状況から推測が可能です。2月末までの状況をみてみると,今年は2011年以降ではもっとも暖かい年だということがわかりました。今,きっぱり言いましょう。「今年のさえずりは早い」と。
 さて,数か月後,ぼくの鼻は高くなっているでしょうか? それともしょんぼりしているでしょうか? 少なくとも予想が外れたことに対して「4月になって,ちょっと寒くなったからなぁ」などと言い訳を重ねるような人間ではないようにしたいと思います。

さえずりの聴き取り調査に参加しませんか?

 今回の報告のもととなったさえずりの聴き取り調査は今年も実施します。山の鳥の温暖化の影響などを明らかにすることを目的とした調査です。4月1日から毎朝,各地に設置してあるライブマイクの聴き取りをしています。
 ライブマイクは北海道富良野,長野県志賀高原,埼玉県秩父,山梨県山中湖に設置してあり,日によって場所を変えて聴き取りをします。どなたでも,インターネットを通して,聞くことができます。
 なかなか行く機会のない場所の鳥の様子を聞くこともできますし,初心者の方は聞き分けの勉強になります。また,それ以外の方は繁殖期の調査に向けて,鳴き声の聞き分けの「リハビリ」にもなります。ご興味のある方は以下のホームページで参加方法をご覧になり,ご参加ください。
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/forest/img/chichibu-live.pdf

 また,勉強/聞き分けのリハビリのためには,以下のホームページ「鳥の鳴き声 マイスターへの道 」もお奨めです。
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koeq/
 鳥の声と名前を聞き流して覚える「スピードバーディング」,クイズ形式で習熟度を試せる「鳴き声クイズ」などもありますのでお試しください。

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