バードリサーチニュース

研究誌新着論文:越冬地におけるオオハクチョウとオナガガモの飛行高度

バードリサーチニュース2018年7月: 6 【研究誌】
著者:植田睦之

オオハクチョウ(撮影:伊藤利喜雄)

 水辺で鳥を見ていると,ガンカモ類が採食場所の水田へと飛び立って行くのをみることがあります。カモ類は軽やかに飛んできますし,マガンは盛大に羽音をたてながら徐々に高度を上げていきます。そしてハクチョウ類はずいぶんと重たそう・・・。
 見た目でも種による違いがありますが,実際のこれらの鳥たちの飛び方にはどの程度の違いがあり,どのように上昇しているのでしょうか? 最近はワシだけでなくガンカモ類についても風車のバードストライクが心配されているので,ガンカモ類がどのように飛行高度をあげるのかを知ることは,その影響を考える上でも重要です。そこで伊豆沼でオナガガモとオオハクチョウにGPSをつけてその飛行行動を追跡してみました。


植田睦之・嶋田哲郎・菊地デイル万次郎・三上かつら・内田 聖・高橋佑亮・ 時田賢一・杉野目斉・矢澤正人(2018)越冬地におけるオオハクチョウとオナガガモの飛行高度.Bird Research 14: S13-S18.

 

 2017年に宮城県伊豆沼で 5羽のオオハクチョウと 2羽のオナガガモの飛行をGPSで追跡しました。日常のねぐら-採食地間の飛行を飛び立ちから追跡してみると,オオハクチョウは着陸態勢に入るまで上昇を続け,1kmあたり20m程度でコンスタントに上昇しながら飛んでいきました。オナガガモはデータが少ないものの,オオハクチョウよりは速く上昇していました(図1)。
 オオハクチョウの持続可能な上昇能力(人に例えるとダッシュではなくジョギングのイメージ)を翼面積,翼開長,体重,飛翔筋の量から推定して実際の上昇速度と比べると,オオハクチョウは持っている能力よりずっとゆっくりと上昇していることがわかりました。

図1 オオハクチョウとオナガガモの飛び立ってからの上昇状況と持続可能な上昇能力との比較


 着陸態勢にはいるまで上昇を続けるところを見ると,オオハクチョウはできるだけ高いところを飛ぼうとしているようです。それなら,もっと早く上昇してその後,水平飛行に入っても良さそうですが,なぜ,そうしないのでしょうか? 20m/km程度の上昇が,より労力が少なくてすむ経済的な飛行なのでしょうか? そしてハンターがいて,低空が危険な場所では,速く上昇するのでしょうか? 将来そんなことも明らかにできたら,と思います。

論文の閲覧 http://doi.org/10.11211/birdresearch.14.S13

 

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