バードリサーチニュース

生態図鑑(要約版) アリスイ

バードリサーチニュース2015年8月: 6 【生態図鑑】
著者:橋間清香・加藤貴大

○英名: Eurasian Wryneck   
  学名: Jynx torquilla
○分類: キツツキ目 キツツキ科

○鳴き声
 繁殖期にクイクイクイと甲高い声で鳴く.巣内雛はシャーシャーと餌乞い声を発する.巣立ち間際にはピリリという声に変化する.

アリスイ (撮影:堤 朗)

アリスイ (撮影:堤 朗)


○分布
 繁殖期はヨーロッパからアジアにかけて広く分布する.繁殖後は南下し,アフリカ大陸北部などで越冬する.
 日本では北海道と青森,秋田,岩手など東北北部に繁殖記録がある.越冬期のアリスイは関東地方から九州地方まで観察されているが,国外への渡り状況については不明である.秋田県大潟村では,繁殖個体の約3割が帰還している.

○繁殖システム
 ほとんどのつがいが一夫一妻を形成するが,一夫二妻や一妻二夫も確認されている.

○巣
 樹洞やキツツキの古巣,巣箱を利用して営巣する.他の鳥が放棄した巣を使う場合,その鳥が運んだ巣材の上に産卵するが,どの鳥も使わなかった巣箱に繁殖する場合は底板の上にそのまま産卵する.スズメの巣を奪うこともある.

○抱卵・育雛期間
 卵は一腹卵をすべて産み終えてから約10日後に孵化する.雌雄ともに抱卵斑が現れ,交代で抱卵する.育雛期間は約22日で,育雛も雄雌両方で行なう.巣立ち率は約70%以上だが,まれに半数しか生き残れない場合や全雛死亡することもある.

○食性と採餌行動
 和名の通り,アリを主に採餌する.舌はアリを捕食することに特化しており,地上のアリの巣に長い舌を直接入れてアリを絡め捕る.ヒナへの給餌には卵や蛹を与える.蛾や蜘蛛,コガネムシのような甲虫類も採餌する.またカタツムリを給餌している様子も観察され,巣立ち後の巣内にはカタツムリの殻が多く残る.ロシアの個体群ではバッタ,アブラムシ,カブトムシ,ガガンボ,カゲロウなども食べると報告されている.

○首ふり行動
 アリスイは首をクネクネとねじる奇妙な行動をとることが知られている.巣内雛も孵化16日目以降には首ふりを行なう.この行動はヘビの擬態であるともいわれており,捕食者に対する防衛行動だと考えられている.著者らは捕食者に対する行動であることを確かめるために,カラスやイタチの剥製を巣箱の近くに提示してみた.その結果,アリスイは剥製に対し警戒声を発したり,スズメやコムクドリなどとモビングをしたが,首ふり行動は観察されなかった.少なくとも巣の近くに捕食者がいるだけでは首ふり行動をしないことが分かった.
 しかし,これだけでは首ふり行動が対捕食者行動ではないとは言い切れない.著者らはハンドリング中と,アリスイがかすみ網にかかっているときに捕獲者が近づいた状況で首ふり行動を確認している.より差し迫った状況,例えば捕食者に捕まって身動きできない時などに首ふりを行なうのかもしれない.首ふり行動が発生する状況およびその行動の機能と効果については今後の解明が待たれる.

◆その他掲載記事
 ・全長,翼長,ふ蹠長,体重
 ・羽色
 ・生息環境
 ・卵
 ・キツツキの異端児
 ・巣の防衛
 ・ヨーロッパでの個体数減少の状況

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